回复: clannad渚线剧本注音计划
渚(なぎさ)「お、おはようございます」
朋也(ともや)「ああ、おはよ」
渚(なぎさ)「………」
朝(あさ)の挨拶(あいさつ)をした後(あと)、渚(なぎさ)は顔(かお)を伏(ふ)せてしまった。
朋也(ともや)「どうかしたか?」
渚(なぎさ)「いえ、なんでもないです」
渚(なぎさ)「ちょっと恥(は)ずかしかっただけです」
朋也(ともや)「恥(は)ずかしい?
今更(いまさら)だな」
渚(なぎさ)「はい…」
渚(なぎさ)「朋也(ともや)くんは、わたしを支(ささ)えてくれる人(ひと)でした」
朋也(ともや)「俺(おれ)だっておまえに支(ささ)えられてたぞ」
渚(なぎさ)「あ、そうなんですか?」
朋也(ともや)「そうだ」
渚(なぎさ)「でも、きっと、わたしのほうが何倍(なんばい)も支(ささ)えてもらってます」
朋也(ともや)「そうか…?」
渚(なぎさ)「はい。朋也(ともや)くん、口(くち)は悪(わる)いですけど、とても優(やさ)しくて…」
渚(なぎさ)「すごくいい人(ひと)だなって…」
渚(なぎさ)「かっこいいし…」
渚(なぎさ)「こんな人(ひと)の、彼女(かのじょ)になる人(ひと)ってどんな人(ひと)かなって…」
渚(なぎさ)「そう思(おも)ってました」
朋也(ともや)「………」
渚(なぎさ)「そうやって、振(ふ)り返(かえ)りながら…」
渚(なぎさ)「ああ…その彼女(かのじょ)って、わたしなんだって…」
渚(なぎさ)「そう思(おも)ったときに、朋也(ともや)くんがやってきました」
渚(なぎさ)「そうしたら、朋也(ともや)くんの顔(かお)、見(み)れないぐらいに照(て)れてしまいました…」
朋也(ともや)「そ…」
なにかよくわからなかったけど…俺(おれ)なんかの顔(かお)で照(て)れられるなんて思(おも)ってもみなかった。
渚(なぎさ)「あのっ」
朋也(ともや)「あん?」
渚(なぎさ)「今日(きょう)も、わたし、朋也(ともや)くんの彼女(かのじょ)です」
自信(じしん)を持(も)って言(い)った。
朋也(ともや)「………」
突然(とつぜん)だったから、俺(おれ)は面食(めんく)らって、一瞬(いっしゅん)言葉(ことば)に詰(つ)まる。
それだけでも、渚(なぎさ)は不安(ふあん)に思(おも)ってしまったのだろう。
渚(なぎさ)「…ですよね?」
そう、控(ひか)えめに訊(き)き直(なお)していた。
朋也(ともや)「………」
朋也(ともや)「ああ、当然(とうぜん)だ」
朋也(ともや)「一日(いちにち)で別(わか)れてたまるか」
朋也(ともや)「明日(あした)も、明後日(あさって)もだよ」
渚(なぎさ)「その次(つぎ)の日(ひ)もですか」
朋也(ともや)「ああ」
そんなに俺(おれ)みたいな甲斐性(かいしょ)のない男(おとこ)を離(はな)したくないのだろうか。
ちょっとしたことで、不安(ふあん)に思(おも)ってしまうこいつのことだからな…。
朋也(ともや)「いつまでもだよ」
そう安心(あんしん)させるように俺(おれ)は言(い)っていた。
渚(なぎさ)「本当(ほんとう)ですかっ」
朋也(ともや)「ああ」
朋也(ともや)「ほら、そろそろ行(い)かないと遅刻(ちこく)するぞ」
渚(なぎさ)「は、はいっ」
また、俺(おれ)たちは坂(さか)を登(のぼ)った。
春原(すのはら)「おい、岡崎(おかざき)」
春原(すのはら)「おまえ、朝練(あされん)、どうしてサボった」
朋也(ともや)「部活(ぶかつ)かよ、これはっ」
春原(すのはら)「部活(ぶかつ)じゃない。けど、部活(ぶかつ)してる連中(れんちゅう)に勝(か)とうとしてるんだ」
春原(すのはら)「それぐらいの意気込(いきご)みでないとね」
春原(すのはら)「それに時間(じかん)がない。試合(しあい)は来週(らいしゅう)の水曜(すいよう)だから」
朋也(ともや)「はぁ?」
春原(すのはら)「さっき決(き)めてきた。壮観(そうかん)だったよ。バスケ部(ぶ)の唖然(あぜん)とする顔(かお)さ」
朋也(ともや)「………」
朋也(ともや)「いつって言(い)ったっけ?」
春原(すのはら)「来週水曜(らいしゅうすいよう)」
朋也(ともや)「待(ま)てっ、人数(にんずう)も集(あつ)まってないってのに勝手(かって)にそんなこと決(き)めてんじゃねえよ、馬鹿(ばか)っ」
春原(すのはら)「いるじゃん、三人(さんにん)」
朋也(ともや)「どこに」
春原(すのはら)「おまえと僕(ぼく)と渚(なぎさ)ちゃんで三人(さんにん)」
朋也(ともや)「渚(なぎさ)をいれるな。ふたりだろっ」
春原(すのはら)「まぁな。まともに動(うご)けるのはふたりだな」
春原(すのはら)「しかし、おまえも知(し)っての通(とお)り、僕(ぼく)の運動神経(うんどうしんけい)はずば抜(ぬ)けている」
春原(すのはら)「この僕(ぼく)をポイントゲッターに据(す)えていれば間違(まちが)いないさ」
朋也(ともや)「馬鹿(ばか)か、おまえはっ。3on3で、ひとりまともに動(うご)けないで勝(か)てるかっ」
朋也(ともや)「しかも、シュートを打(う)てる奴(やつ)がひとりだ」
朋也(ともや)「やるまでもない。負(ま)けて恥(はず)かくだけだぞ」
春原(すのはら)「そうなのか?」
こいつは全然(ぜんぜん)わかっちゃいねぇ…。
春原(すのはら)「そいつは、まずい。合唱部(がっしょうぶ)の甘(あま)ちゃん部長(ぶちょう)にも、啖呵(たんか)を切(き)ってきたところだからな…」
朋也(ともや)「なんてだよ…」
春原(すのはら)「僕(ぼく)たちが勝(か)ったら、二度(にど)とハンデを盾(たて)にすんじゃねぇって」
朋也(ともや)「おまえな…」
朋也(ともや)「先走(さきばし)りしすぎなんだよっ!」
ぽか!と一発(いっぱつ)殴(なぐ)っておく。
春原(すのはら)「いてぇなぁ!
いいじゃないか、これからもうひとり探(さが)せばよっ!」
朋也(ともや)「四日(よっか)でかよ。しかも、そのうち二日(ふつか)は休(やす)みじゃねぇか…」
春原(すのはら)「おまえ、誰(だれ)か知(し)り合(あ)いでいないのか?
バスケやってたんなら、いるだろ?」
朋也(ともや)「いねぇよ。おまえは」
春原(すのはら)「いるかっ」
朋也(ともや)「………」
友達(ともだち)のいないふたりだった。
朋也(ともや)「仕方(しかた)ない。闇雲(やみくも)に当(あ)たってみるか」
春原(すのはら)「バレるなよ。今更(いまさら)メンバーが集(あつ)まってないなんて知(し)れたら、それこそ恥(はじ)だ」
朋也(ともや)「おまえが言(い)うな、おまえが」
俺(おれ)は数(かず)少(すく)ない知(し)り合(あ)いを当(あ)たってみたが、成果(せいか)はなし。
誰(だれ)もが、どうしてこんな勉強(べんきょう)に忙(いそが)しい時期(じき)にそんなことをしなくちゃならないんだ、と呆(あき)れた。
その中(なか)のひとりは鼻(はな)で笑(わら)うようにして言(い)ったから殴(なぐ)ってやろうかと思(おも)ったが、ぎりぎりのところで抑(おさ)える。
そもそも、連中(れんちゅう)のほうが正(ただ)しいのだ。
馬鹿(ばか)なのは、春原(すのはら)ひとりだ。
ぽかっ!
春原(すのはら)「いてぇっ!
なんで顔(かお)を合(あ)わせるなり殴(なぐ)られるよっ!?」
朋也(ともや)「試合(しあい)なんてやめだ、やめっ」
朋也(ともや)「断(ことわ)ってこいっ」
春原(すのはら)「今更(いまさら)断(ことわ)れっかよっ」
朋也(ともや)「潰(つぶ)れるのは、おまえのメンツだけだろ?
潰(つぶ)れてこい」
春原(すのはら)「いや、おまえの名前(なまえ)でも啖呵(たんか)を切(き)ってきた」
朋也(ともや)「は…?」
春原(すのはら)「春原(すのはら)·岡崎(おかざき)コンビとしてだな…」
朋也(ともや)「なんてことしてくれるんだよっ!」
俺(おれ)は春原(すのはら)の首(くび)を絞(し)めにかかる。
春原(すのはら)「ぐはぁっ!」
振(ふ)りほどいて咳(せ)き込(こ)む春原(すのはら)。
春原(すのはら)「てめぇっ…その元気(げんき)を、試合(しあい)に使(つか)えよ!」
朋也(ともや)「使(つか)わねぇよ!」
朋也(ともや)「もう、いいっ…勝手(かって)にしろっ」
俺(おれ)は呆(あき)れて、机(つくえ)に突(つ)っ伏(ぷ)す。
そもそも、渚(なぎさ)と付(つ)き合(あ)ってから、初(はじ)めての週末(しゅうまつ)だ。
朋也(ともや)(それをメンバー集(あつ)めだ、バスケの練習(れんしゅう)だ?)
朋也(ともや)(やってられっかよ…)
春原(すのはら)「さ、メンバー探(さが)し、頑張(がんば)ろうぜっ」
朋也(ともや)「………」
俺(おれ)は目(め)の前(まえ)の鞄(かばん)をひっ掴(つか)むと…
だっ!
ダッシュで教室(きょうしつ)を飛(と)び出(だ)した。
廊下(ろうか)に出(で)ると、全力疾走(ぜんりょくしっそう)で駆(か)け、そしてB組(ぐみ)のプレートの下(した)に滑(すべ)り込(こ)む。
朋也(ともや)(渚(なぎさ)っ…)
開(ひら)かれたドアの向(む)こうにその姿(すがた)を探(さが)す。
窓際(まどぎわ)の前(まえ)の席(せき)、昨日(きのう)と同(おな)じように渚(なぎさ)は椅子(いす)に座(すわ)っていて、教科書(きょうかしょ)を鞄(かばん)の中(なか)に詰(つ)めていた。
俺(おれ)の気配(けはい)に気(き)づいてか、こっちを向(む)いた。
そして、照(て)れたようにえへへと笑(わら)う。
朋也(ともや)(だから、えへへじゃないっ)
急(いそ)がないと春原(すのはら)に捕(つか)まってしまう。
俺(おれ)は必死(ひっし)に手招(てまね)きして、急(せ)かした。
渚(なぎさ)「どうしましたかっ」
朋也(ともや)「帰(かえ)る準備(じゅんび)はできてるかっ」
渚(なぎさ)「え?
できてますけど」
鞄(かばん)を胸(むね)の前(まえ)まで持(も)ち上(あ)げてみせる。
朋也(ともや)「よし、帰(かえ)るぞっ」
渚(なぎさ)「え、あ…はいっ」
渚(なぎさ)「朋也(ともや)くん」
朋也(ともや)「あん?」
渚(なぎさ)「バスケの練習(れんしゅう)あったんじゃないんですかっ」
朋也(ともや)「いや…」
俺(おれ)は嘘(うそ)をつくことにする。でないと、せっかくの週末(しゅうまつ)をふたりきりで過(す)ごせなくなる。
朋也(ともや)「練習(れんしゅう)はない」
渚(なぎさ)「え?
春原(すのはら)さん、やる気(き)いっぱいでした」
朋也(ともや)「いや、それは違(ちが)ったんだ…」
朋也(ともや)「バスケの練習(れんしゅう)は…俺(おれ)と一緒(いっしょ)にいる口実(こうじつ)だったんだよ…」
渚(なぎさ)「口実(こうじつ)、ですか?」
朋也(ともや)「ああ…よく聞(き)けよ…」
朋也(ともや)「あいつホモになっちまったんだ…」
渚(なぎさ)「え…?
なんですか?」
朋也(ともや)「ホモ。おまえ、知(し)らねぇの?」
渚(なぎさ)「はい」
朋也(ともや)「男(おとこ)が好(す)きな男(おとこ)のことだよ」
渚(なぎさ)「でも、それは、いいことだと思(おも)います」
朋也(ともや)「違(ちが)う。友情(ゆうじょう)じゃない、愛情(あいじょう)だ。しかも、プラトニックじゃないんだ」
朋也(ともや)「プラトニックじゃないということがわかるか?」
朋也(ともや)「精神的(せいしんてき)な付(つ)き合(あ)いじゃない、ということだ。じゃ、その反対(はんたい)はなんだ?」
渚(なぎさ)「………」
唖然(あぜん)としている。未知(みち)の世界(せかい)だったのだろう。
朋也(ともや)「ああ、健全(けんぜん)だったあいつが、そんな変態野郎(へんたいやろう)になっちまうとは…」
朋也(ともや)「そんな奴(やつ)が迫(せま)ってきたら、おまえ、逃(に)げるしかないだろう?」
朋也(ともや)「バスケの練習中(れんしゅうちゅう)もボールじゃなくて、俺(おれ)の体(からだ)にベタベタ触(さわ)ってきやがってよ…」
朋也(ともや)「もう、あんなの嫌(いや)だ…」
渚(なぎさ)「それ、本当(ほんとう)…でしょうか…」
朋也(ともや)「本当(ほんとう)だよ」
朋也(ともや)「それともなんだ。渚(なぎさ)は、俺(おれ)が春原(すのはら)の餌食(えじき)になれってか」
渚(なぎさ)「い、いえ…」
朋也(ともや)「練習中(れんしゅうちゅう)にモミモミされろってか」
渚(なぎさ)「いえっ…」
朋也(ともや)「俺(おれ)はおまえのためにも、清(きよ)いままの体(からだ)でだな…」
渚(なぎさ)「すみません…」
渚(なぎさ)「そんな深(ふか)い事情(じじょう)があったなんて、知(し)らなかったですから…」
朋也(ともや)「ああ、誰(だれ)にも言(い)うなよ」
渚(なぎさ)「はい。言(い)いません」
渚(なぎさ)「そもそも、そんなこと口(くち)になんてできないです」
渚(なぎさ)「その…あまりに衝撃的(しょうげきてき)すぎて…」
朋也(ともや)「だから、今日(きょう)はさ…」
渚(なぎさ)「はい」
朋也(ともや)「ふたりで遊(あそ)ぼう」
渚(なぎさ)「はい」
朋也(ともや)「まず、どっかで飯(めし)を食(く)ってさ」
渚(なぎさ)「はい」
朋也(ともや)「よし、じゃ、いこう」
渚(なぎさ)「はいっ」
再(ふたた)び歩(ある)き出(だ)す。
俺(おれ)は学校(がっこう)の正面(しょうめん)にある、定食屋(ていしょくや)へと渚(なぎさ)を連(つ)れていく。
朋也(ともや)「ここで、いいか?」
渚(なぎさ)「はい」
朋也(ともや)「じゃ、入(はい)るぞ」
渚(なぎさ)「え?
このままですか?」
朋也(ともや)「ああ」
渚(なぎさ)「わたし、制服(せいふく)です」
朋也(ともや)「俺(おれ)だって、制服(せいふく)だよ」
渚(なぎさ)「制服(せいふく)のまま遊(あそ)んでたら…ダメだと思(おも)います」
朋也(ともや)「どうして」
渚(なぎさ)「それは道草(みちくさ)です」
俺(おれ)は思(おも)わず顔(かお)を覆(おお)わずにはいられない。
朋也(ともや)「おまえは小学生(しょうがくせい)か…」
渚(なぎさ)「だから、一度(いちど)帰(かえ)って着替(きが)えてきます」
朋也(ともや)「それで、またここに来(きたる)んのか?」
渚(なぎさ)「はい」
渚(なぎさ)「とても、美味(おい)しそうなメニューが並(なら)んでいます」
渚(なぎさ)「楽(たの)しみです」
朋也(ともや)「………」
…力(ちから)ずくで連(つ)れ込(こ)んでやろうか、とも思(おも)う。
が、連(つ)れ込(こ)む先(さき)が自分(じぶん)の部屋(へや)であるならまだしも…
俺(おれ)は店(みせ)の看板(かんばん)を見上(みあ)げる。
…御食事処(おしょくじところ)。
朋也(ともや)(ああ…俺(おれ)って男(おとこ)だ…)
朋也(ともや)(力(ちから)ずくで彼女(かのじょ)を連(つ)れ込(こ)もうとしてるなんてな…)
朋也(ともや)(興奮(こうふん)してきたぜ…)
朋也(ともや)(ハァ…ハァ…)
見上(みあ)げる。
…御食事処(おしょくじところ)。
朋也(ともや)「って、こんな状況(じょうきょう)はイヤだぁーーーっ!」
渚(なぎさ)「はい?」
朋也(ともや)「すんなり入(はい)ってくれ、頼(たの)むからっ」
渚(なぎさ)「制服(せいふく)ではダメです」
朋也(ともや)「おまえ、見(み)かけによらず頑固(がんこ)なのな…」
渚(なぎさ)「頑固(がんこ)とかそういうんじゃないです」
渚(なぎさ)「校則(こうそく)ですから」
がらり…。
今(いま)、ちょうど三人組(さんにんぐみ)の同校(どうこう)の生徒(せいと)が制服(せいふく)のまま、のれんをくぐっていった。
朋也(ともや)「見(み)たか」
朋也(ともや)「そんな校則(こうそく)なんて、あってないようなもんなんだ」
渚(なぎさ)「人(ひと)は人(ひと)です」
朋也(ともや)「でも、おまえも、遅刻(ちこく)したりしてたじゃん」
渚(なぎさ)「それは…」
渚(なぎさ)「そうですけどっ…」
渚(なぎさ)「でも、だからって、ずるずると悪(わる)いことしてたら、ダメな人間(にんげん)になってしまいます」
渚(なぎさ)「だから、わたしはがんばりたいんです」
渚(なぎさ)「ダメでしょうか?」
朋也(ともや)「………」
ここまで彼女(かのじょ)に懇願(こんがん)されると、強引(ごういん)に連(つ)れ込(こ)むようなこともできなかった。
男子生徒(だんしせいと)A「いやぁ、腹減(はらへ)ったなぁ!」
男子生徒(だんしせいと)B「カツ丼(どん)、カツ丼(どん)!」
どんどんと同校(どうこう)の生徒(せいと)たちが吸(す)い込(こ)まれていく。
朋也(ともや)「てめぇら、帰(かえ)って着替(きが)えてこいやーっ!」
そのひとりを捕(つか)まえて、怒鳴(どな)ってやる。
男子生徒(だんしせいと)「ひっ…わ、わっかりましたぁ!」
俺(おれ)の剣幕(けんまく)に怯(おび)えるようにして、逃(に)げ帰(かえ)っていった。
朋也(ともや)「ふぅ…いいことしたぜ」
渚(なぎさ)「なんだか八(やっ)つ当(あ)たりに見(み)えました…」
朋也(ともや)「気(き)のせいだ」
今(いま)の生徒(せいと)も帰(かえ)ったことだし、俺(おれ)たちも帰(かえ)ることにしよう。
朋也(ともや)「帰(かえ)るか…」
俺(おれ)は踵(きびす)を返(かえ)す。その先(さき)。
春原(すのはら)「なに食(く)うかなぁ」
朋也(ともや)「ぐあ…」
春原(すのはら)がいた。
こいつも、今日(きょう)は、この定食屋(ていしょくや)なのか…。
春原(すのはら)「あれ…」
春原(すのはら)「これはこれは、岡崎(おかざき)くん」
春原(すのはら)「今(いま)から昼(ひる)?」
朋也(ともや)「ああ、そうだよ…」
朋也(ともや)「でも、渚(なぎさ)が制服(せいふく)で食(く)うと寄(よ)り道(みち)だって言(い)うからさ…帰(かえ)ることにしたんだ」
春原(すのはら)「帰(かえ)る?」
春原(すのはら)「そんなことしてたら、午後(ごご)からのミーティングに間(ま)に合(あ)わないと思(おも)うんだけど」
春原(すのはら)「開始(かいし)まで後(あと)、30分(ぷん)ね」
腕時計(うでどけい)を突(つ)きつけられる。
朋也(ともや)「やらねぇって言(い)ってんだろ、馬鹿(ばか)」
春原(すのはら)「つれないねぇ」
春原(すのはら)「渚(なぎさ)ちゃんとは、こんなに仲良(なかよ)さそうにしちゃってさ」
春原(すのはら)「僕(ぼく)とももっと仲良(なかよ)くしてくれよ、寂(さび)しいじゃん」
春原(すのはら)が俺(おれ)の肩(かた)を掴(つか)もうとする。
渚(なぎさ)「あっ」
ぱしっ。
その腕(うで)を、なぜか渚(なぎさ)が掴(つか)んで、制止(せいし)させていた。
春原(すのはら)「ありゃ?
どうしたの、渚(なぎさ)ちゃん」
渚(なぎさ)「そ、そのっ…」
渚(なぎさ)「そういうことはっ…朋也(ともや)くんも、嫌(いや)がってますし…よくないとっ…」
春原(すのはら)「どうして。飯(めし)食(く)いながら、ミーティングするだけだよ?」
渚(なぎさ)「それは、構(かま)わないですっ…」
渚(なぎさ)「ただ、その、朋也(ともや)くんにあまり無闇(むやみ)に触(さわ)るのはどうかとっ…」
朋也(ともや)(げっ…)
…こいつはマジで、春原(すのはら)がホモになったと信(しん)じているのだ。
朋也(ともや)(なんて、純粋(じゅんすい)な奴(やつ)なんだぁ…)
感動(かんどう)すら覚(おぼ)える。
春原(すのはら)「いや、だって、僕(ぼく)と岡崎(おかざき)の付(つ)き合(あ)いだぜ?」
春原(すのはら)「これぐらいのこと、いいと思(おも)うんだけどなぁ」
渚(なぎさ)「だ…ダメですっ」
渚(なぎさ)「春原(すのはら)さんと、朋也(ともや)くんがどれだけ付(つ)き合(あ)いが長(なが)くても…」
渚(なぎさ)「今(いま)は…」
春原(すのはら)「今(いま)は?」
渚(なぎさ)「今(いま)はっ、わたしの彼氏(かれし)なんですからっ」
渚(なぎさ)の爆弾発言(ばくだんはつげん)。
ひとり修羅場(しゅらじょう)。
春原(すのはら)「へ?」
顔(かお)を真(ま)っ赤(か)にして、泣(な)き出(だ)しそうにしている。
朋也(ともや)(ああ、渚(なぎさ)よ…おまえは本当(ほんとう)に可愛(かわい)い奴(やつ)だ…)
春原(すのはら)「なぁ、岡崎(おかざき)、どういうこと、これ?」
春原(すのはら)は唖然(あぜん)としている。
渚(なぎさ)を落(お)ち着(つ)かせるには、事実(じじつ)を明(あ)かすしかなかった。
朋也(ともや)「あのな…渚(なぎさ)」
渚(なぎさ)「は、はい…」
朋也(ともや)「嘘(うそ)なんだ」
渚(なぎさ)「は…はい?」
朋也(ともや)「その、春原(すのはら)が…」
朋也(ともや)「ホモだってこと…」
渚(なぎさ)「え…えぇ…?」
渚(なぎさ)「ぐっ…」
ついに、堪(た)えていた涙(なみだ)が、溢(あふ)れ出(だ)してしまった。
渚(なぎさ)「ひどいです、朋也(ともや)くんっ…」
春原(すのはら)「ああ、本当(ほんとう)にひでぇよ、こいつは」
春原(すのはら)「人(ひと)が同性愛者(どうせいあいしゃ)なんて、そんな不毛(ふもう)な妄想(もうそう)するなんてさ」
春原(すのはら)「つーわけで、スポーツで発散(はっさん)しような」
春原(すのはら)「きっと、溜(た)まってんだよ」
春原(すのはら)「渚(なぎさ)ちゃんも言(い)ってやれよ」
渚(なぎさ)「はい」
渚(なぎさ)「わたしも、春原(すのはら)さんと一緒(いっしょ)にがんばってほしいです」
渚(なぎさ)「それに春原(すのはら)さんを…わたし、傷(きず)つけてしまいましたから…」
渚(なぎさ)「だから、わたしもお手伝(てつだ)いしたいです」
春原(すのはら)「うんうん、優(やさ)しいねぇ、渚(なぎさ)ちゃんは」
最悪(さいあく)の結果(けっか)になってしまった…。
今更(いまさら)、俺(おれ)だけ逃(に)げようが、渚(なぎさ)は春原(すのはら)の手伝(てつだ)いをしてしまうだろう。
朋也(ともや)「はぁ…」
俺(おれ)は自分(じぶん)の馬鹿(ばか)さ加減(かげん)にため息(いき)をつく。
渚(なぎさ)「それに朋也(ともや)くん、話(はなし)だと水曜日(すいようび)までです」
渚(なぎさ)「ふたりで遊(あそ)ぶのは、それからでもたくさんできます」
そんな俺(おれ)の落胆(らくたん)する姿(すがた)を見(み)て、哀(あわ)れに思(おも)ってくれたのか、渚(なぎさ)はそう言(い)ってくれる。
渚(なぎさ)「そんな、わたしなんかと遊(あそ)ぶのを楽(たの)しみにして…がんばる気(き)になれるかはわからないですけど…」
朋也(ともや)「いや、なれるよ、十分(じゅうぶん)」
渚(なぎさ)「本当(ほんとう)ですか…なら、よかったです」
渚(なぎさ)「わたしも、それを楽(たの)しみにがんばりたいです」
春原(すのはら)「おふたり、結構(けっこう)アツアツなんだね…」
朋也(ともや)「うらやましいか、この野郎(やろう)」
俺(おれ)は開(ひら)き直(なお)るしかなかった。
春原(すのはら)「付(つ)き合(あ)いだして、間(ま)もないんだろ?」
朋也(ともや)「ああ、そうだけど」
春原(すのはら)「ふん、なら、おもしろいことになりそうだな」
春原(すのはら)「試合(しあい)が終(お)わる頃(ころ)には…三角関係(さんかくかんけい)になってるかもなっ」
俺(おれ)は想像(そうぞう)してみる。
『俺(おれ)』―恋仲関係(こいなかかんけい)―『渚(なぎさ)』←ストーカー―『春原(すのはら)』
朋也(ともや)「ひぃ、やめてくれっ!」
春原(すのはら)「ふん…僕(ぼく)を男(おとこ)として恐(おそ)れてるのか。まぁ、無理(むり)もないけどねっ」
春原(すのはら)「僕(ぼく)が本気(ほんき)になれば、それはもう…」
朋也(ともや)「被害者(ひがいしゃ)続出(ぞくしゅつ)かよ…」
春原(すのはら)「僕(ぼく)って結構(けっこう)マメだしさ…」
朋也(ともや)「尾行(びこう)とかやりそうだもんな…」
春原(すのはら)「………」
春原(すのはら)「きっと、おまえの想像(そうぞう)は間違(まちが)ってるぞ」
朋也(ともや)「うん、厄介(やっかい)そうだったから、そのほうがありがたい」
春原(すのはら)「ほら、ドラマであるだろう。主役(しゅやく)、ヒロイン、と来(き)たら、な?」
俺(おれ)は想像(そうぞう)してみる。
主役(しゅやく):岡崎朋也(おかざきともや)
ヒロイン:古河渚(ふるかわなぎさ)
死体役(したいえき):春原陽平(すのはらようへい)
朋也(ともや)「くそぅ、てめぇなんかに負(ま)けるかぁ」
春原(すのはら)「へっ、調子(ちょうし)ぶっこいてたら、寝首(ねくび)かかれるぜ?」
朋也(ともや)「かかれるかよぅ、この死人(しにん)がぁ!」
春原(すのはら)「って、誰(だれ)が死人(しにん)だぁぁーーっ!」
春原(すのはら)「では、ミーティングを行(おこな)う」
春原(すのはら)「議題(ぎだい)はただひとつ…」
朋也(ともや)「春原(すのはら)の馬鹿(ばか)は死(し)んだら治(なお)るか?」
春原(すのはら)「ちがーーーーうっ!」
春原(すのはら)「3on3のメンバー集(あつ)めだよっ」
春原(すのはら)「今(いま)のところ、僕(ぼく)と岡崎(おかざき)」
春原(すのはら)「後(あと)ひとり足(た)りないわけだが…」
春原(すのはら)の目(め)が渚(なぎさ)に向(む)く。
春原(すのはら)「ま、見(み)つけられなかったら、渚(なぎさ)ちゃんがいるし」
本当(ほんとう)に、それは最悪(さいあく)の選択(せんたく)だ。
渚(なぎさ)には悪(わる)いが、こいつの運動神経(うんどうしんけい)では戦力(せんりょく)にならない。
試合(しあい)という体裁(ていさい)を整(ととの)えるためだけでも、もうひとり動(うご)ける人間(にんげん)を探(さが)す必要(ひつよう)がある。
朋也(ともや)「こんなところで呑気(のんき)に話(はな)してる暇(ひま)なんてないんじゃないのか?」
春原(すのはら)「うん?
どうして?」
朋也(ともや)「試合(しあい)は休(やす)み明(あ)けの水曜(すいよう)」
朋也(ともや)「その間(あいだ)、平日(へいじつ)は月曜(げつよう)の一日(いちにち)しかない」
朋也(ともや)「今(いま)から探(さが)し始(はじ)めないとまずいんじゃないのか」
春原(すのはら)「うん、君(きみ)、いいこと言(い)うねぇ」
朋也(ともや)「おまえ、呑気(のんき)すぎるぞ」
春原(すのはら)「まぁ、見(み)つけられなかったら、渚(なぎさ)ちゃんがいるし」
朋也(ともや)「だあぁからっ、こいつはすげぇ運動音痴(うんどうおんち)なのっ!
使(つか)えてたまるかっ、馬鹿(ばか)!」
朋也(ともや)「あ…」
春原(すのはら)「かーっ、渚(なぎさ)ちゃんの彼氏(かれし)ってすんげぇ恐(こわ)い人(ひと)だねぇ」
春原(すのはら)「傷(きず)つかないうちにさ、別(わか)れたほうがいいんじゃない?」
渚(なぎさ)「そんなことないですっ…」
渚(なぎさ)「朋也(ともや)くんの口(くち)が悪(わる)いのは、よくわかってるつもりです」
渚(なぎさ)「それは…傷(きず)つかないと言(い)ったら、嘘(うそ)ですけど…」
渚(なぎさ)「それでも、朋也(ともや)くんと一緒(いっしょ)に居(い)ると、楽(たの)しかったり、勇気(ゆうき)づけられたりすることのほうが多(おお)いですから…」
渚(なぎさ)「だから、別(わか)れたりなんかしないです」
春原(すのはら)「………」
春原(すのはら)の顔(かお)がこっちを向(む)く。
春原(すのはら)「なんで、こんないい子(こ)が、おまえの彼女(かのじょ)なんだよおぉぉぉーーっ!」
首根(くびね)っこを掴(つか)まれ、ぶんぶんと振(ふ)られる。
朋也(ともや)「馬鹿(ばか)っ、放(はな)せっ」
春原(すのはら)「ふん、まぁ、いいさ…」
春原(すのはら)「今(いま)のおまえは、ちょっとしたラッキーボーイ」
春原(すのはら)「彼女(かのじょ)が困(こま)っている時(とき)に、たまたま近(ちか)くにいて、頼(たよ)られただけ」
春原(すのはら)「そのうち、もっと素敵(すてき)なナイスガイがいることに気(き)づくことになるのさ」
朋也(ともや)「それ、少(すく)なくともおまえじゃないよな」
春原(すのはら)「僕(ぼく)だよっ、文句(もんく)あるのかよっ」
渚(なぎさ)「春原(すのはら)さんは、その…いい人(ひと)だと思(おも)います。それはもう、十分(じゅうぶん)にわかってます」
春原(すのはら)「ほらね」
渚(なぎさ)「きっと、わたしなんかよりいい人(ひと)、見(み)つかると思(おも)いますっ」
春原(すのはら)「がーん…」
朋也(ともや)「うわーはっはっは!
フラれてんじゃん、おまえ!」
朋也(ともや)「って、なに色恋談義(いろこいだんぎ)に花(はな)を咲(さ)かせてるんだよ、俺(おれ)たちはぁぁーーっ!」
朋也(ともや)「時間(じかん)ないって言(い)ってんだろっ!」
渚(なぎさ)「あ…そうでした」
春原(すのはら)「そうだったねぇ」
朋也(ともや)「おまえら、どこまでも呑気(のんき)な」
朋也(ともや)「とりあえず、出(で)ようぜ。こんなところに居(い)ても、埒(らち)があかないだろ」
すでに校内(こうない)には土曜(どよう)ということもあり、生徒(せいと)は残(のこ)っていなかった。
体育館(たいいくかん)やグラウンドに行(い)けば、部活動(ぶかつどう)に勤(いそ)しむ下級生(かきゅうせい)の連中(れんちゅう)がいただろうけど、そんな奴(やつ)らに知(し)り合(あ)いはいなかった。
渚(なぎさ)「どうしましょう、朋也(ともや)くん」
これ以上(いじょう)探(さが)したって、先生(せんせい)ぐらいしかいそうもないが…。
月曜にする
朋也(ともや)「仕方(しかた)がないな…メンバー集(あつ)めは月曜日(げつようび)にするか」
春原(すのはら)「一日(いちにち)あれば、大丈夫(だいじょうぶ)だって。なぁ、渚(なぎさ)ちゃんっ」
渚(なぎさ)「はい、みんなで手分(てわ)けすれば、きっと大丈夫(だいじょうぶ)です」
本当(ほんとう)にこいつらは、楽天家(らくてんか)でいいな…。
もう、日(ひ)は暮(く)れ始(はじ)めていた。
春原(すのはら)「じゃあねっ」
渚(なぎさ)「はい、また月曜(げつよう)です」
春原(すのはら)が寮(りょう)に戻(もど)っていった。
渚(なぎさ)とふたりきりになる。
渚(なぎさ)「わたしたちも、帰(かえ)りましょう」
朋也(ともや)「ああ」
歩(ある)き出(だ)す。
朋也(ともや)「………」
朋也(ともや)「明日(あした)、休(やす)みだな」
渚(なぎさ)「はい、お休(やす)みです」
明日(あした)は付(つ)き合(あ)ってから初(はじ)めて迎(むか)える休日(きゅうじつ)。
自然(しぜん)と顔(かお)が綻(ふくろ)ぶほどに、楽(たの)しみだった。
渚(なぎさ)「あの…」
渚(なぎさ)「どうしますかっ」
渚(なぎさ)が思(おも)いきって訊(き)いていた。
朋也(ともや)「そりゃあ…ふたりで過(す)ごしたい」
渚(なぎさ)「ですよね」
渚(なぎさ)「わたしもそうしたいです」
朋也(ともや)「………」
渚(なぎさ)「あの…」
朋也(ともや)「なに」
渚(なぎさ)「朋也(ともや)くんの家(いえ)、行(い)っていいですか」
それは…
考(かんが)えてみれば、予想(よそう)できたことだった。
こいつの性格(せいかく)だったら、まず一番先(いちばんさき)に思(おも)いつくことだっただろう。
朋也(ともや)「………」
さっきまでの休(やす)みに馳(は)せる期待(きたい)なんて、消(き)え失(う)せてしまっていた。
渚(なぎさ)「まだ…喧嘩(けんか)してるんですか」
朋也(ともや)「ああ…」
渚(なぎさ)「わたし、会(あ)ってはいけないですか」
会(あ)ってほしくなかった。
だって、あの人(ひと)は…見(み)かけは気(き)のいい大人(おとな)に見(み)えるだろうから。
きっと渚(なぎさ)は、俺(おれ)の一方的(いっぽうてき)な思(おも)いこみだと…そう俺(おれ)を諭(さと)すに違(ちが)いなかった。
誰(だれ)にもわからない。俺(おれ)にしかわからない。
この…長(なが)い仕打(しう)ちは。
朋也(ともや)「昼間(ひるま)はいないしさ…」
渚(なぎさ)「別(べつ)にいらっしゃらなくてもいいです」
渚(なぎさ)「朋也(ともや)くんの家(いえ)に行(い)きたいと思(おも)いました。それだけです」
朋也(ともや)「本当(ほんとう)に何(なに)もないからさ…散(ち)らかってるだけで」
渚(なぎさ)「じゃあ、掃除(そうじ)させてください」
渚(なぎさ)「片(かた)づけたりするの、好(す)きなので」
朋也(ともや)「あのさ、渚(なぎさ)」
渚(なぎさ)「はい」
朋也(ともや)「またにしよう」
渚(なぎさ)「…そうですか、残念(ざんねん)です」
渚(なぎさ)「でも、無理(むり)は言(い)わないです」
朋也(ともや)「悪(わる)いな…」
渚(なぎさ)「いえ」
朋也(ともや)「代(か)わりに、俺(おれ)がおまえの家(いえ)に行(い)くからさ」
渚(なぎさ)「あ、はいっ、是非(ぜひ)お越(こ)しくださいっ」
朋也(ともや)「ま、行(い)き慣(な)れてるし、今更(いまさら)だけどな」
渚(なぎさ)「いえ、やっぱり、その…付(つ)き合(あ)ってからは初(はじ)めてですし…」
渚(なぎさ)「お父(とう)さんにもお母(かあ)さんにも、報告(ほうこく)したいです」
朋也(ともや)「…マジ?」
渚(なぎさ)「はい」
朋也(ともや)「あのさ…その報告(ほうこく)、やめない?」
渚(なぎさ)「どうしてでしょうか」
朋也(ともや)「早苗(さなえ)さんなら、まだしも、あのオッサンに知(し)られたらさ…」
朋也(ともや)「俺(おれ)、無事(ぶじ)でいられない気(き)がするよ」
渚(なぎさ)「え?
よくわからないですけど…」
そりゃおまえには、優(やさ)しい父親(ちちおや)なんだろうけど…。
朋也(ともや)「とにかくだ。まだ心(こころ)の準備(じゅんび)とかできてないしさ…報告(ほうこく)すんのはやめてくれ」
渚(なぎさ)「そうですか、ちょっと残念(ざんねん)です」
渚(なぎさ)「でも、無理(むり)は言(い)わないです」
朋也(ともや)「おまえ、いい奴(やつ)な」
渚(なぎさ)「そんなことないです。朋也(ともや)くんの嫌(いや)がることはしたくないだけです」
朋也(ともや)「いや、俺(おれ)のなんて単(たん)なるわがままだしさ」
朋也(ともや)「たまには、反論(はんろん)したり、怒(おこ)ったりしてくれてもいいからな」
渚(なぎさ)「はい…言(い)う時(とき)は言(い)いたいと思(おも)います」
朋也(ともや)「うん、そのほうがありがたいよ」
渚(なぎさ)「はい、言(い)わせてもらいます。わたしのほうが年上(としうえ)ですし」
そうだった…すっかり忘(わす)れていた。
というか、改(あらた)めてそう考(かんが)えると、感慨深(かんがいぶか)かった。
渚(なぎさ)「……?」
渚(なぎさ)が留年(りゅうねん)していなかったら、俺(おれ)たちは出会(であ)うことなく、渚(なぎさ)は見知(けんち)らぬ先輩(せんぱい)のままだったのだろう。
朋也(ともや)(先輩(せんぱい)か…)
こいつに一番(いちばん)似合(にあ)わない言葉(ことば)だった。
渚(なぎさ)「それでは、また明日(あした)です」
朋也(ともや)「ああ、昼過(ひるす)ぎてから行(い)くから」
渚(なぎさ)「はい、お待(ま)ちしています」
朋也(ともや)「じゃあな」
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seagull 最后编辑于 2009-08-03 14:16:19