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clannad渚线剧本注音完成(rc版发布)
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seagull
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学分:0 个
好人卡:35 张
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[辽宁省沈阳市]
seagull
2009-05-13 22:24
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只看楼主
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5月1日
(
木
)
渚(なぎさ)「おはようございます」
朋也(ともや)「ああ、おはよ…」
並(なら)んで歩(ある)き始(はじ)める。
渚(なぎさ)「あの、わたし、まだ興奮(こうふん)してます…」
朋也(ともや)「あん?」
渚(なぎさ)「目(め)を閉(と)じれば…昨日(きのう)の試合(しあい)が思(おも)い浮(う)かびます」
朋也(ともや)「じゃ、開(あ)けてろ」
渚(なぎさ)「閉(と)じたいですっ。思(おも)い出(だ)したいですっ」
朋也(ともや)「いや、トラウマのようにこびりついて、大変(たいへん)なのかと思(おも)って」
渚(なぎさ)「そんなことないです」
渚(なぎさ)「大切(たいせつ)な思(おも)い出(で)です。一生(いっしょう)、覚(おぼ)えてます」
渚(なぎさ)「いつまでも…昨日(きのう)のように思(おも)い出(だ)すと思(おも)います」
渚(なぎさ)「とても感動的(かんどうてき)でしたから…」
朋也(ともや)「あ、そ」
渚(なぎさ)「未(いま)だに胸(むね)、ドキドキいってます」
渚(なぎさ)「最後(さいご)のシュート…とてもかっこよかったです」
渚(なぎさ)「わたしの…彼氏(かれし)のシュートです」
朋也(ともや)「別(わか)れたら、元(もと)カレのシュートになっちまうな」
渚(なぎさ)「そんなの嫌(いや)ですっ」
渚(なぎさ)「なんか、さっきからからかわれているような気(き)がします…」
朋也(ともや)「冗談(じょうだん)だって」
朋也(ともや)「ま、俺(おれ)も、そこそこ気持(きも)ちよかったよ」
渚(なぎさ)「そうです。大活躍(だいかつやく)でしたから、気持(きも)ちいいはずです」
朋也(ともや)「筋肉痛(きんにくつう)で全身(ぜんしん)痛(いた)いけどな」
渚(なぎさ)「まだ痛(いた)かったですか」
朋也(ともや)「昨日(きのう)よりはマシだけど」
渚(なぎさ)「早(はや)く治(なお)るといいです」
朋也(ともや)「そうだな」
春原(すのはら)「おはよう!」
朋也(ともや)「なんで、おまえ、朝(あさ)から居(い)るんだよ」
春原(すのはら)「べっつにぃ」
男子生徒(だんしせいと)「おまえら、昨日(きのう)、バスケ部(ぶ)に勝(か)ったって本当(ほんとう)か?」
春原(すのはら)「まぁね!」
…わかりやすすぎる。
春原(すのはら)「あいつら、毎日(まいにち)バスケやってるってのにねぇ」
机(つくえ)に腰(こし)かけて、意気(いき)揚々(ようよう)と自慢話(じまんばなし)を始(はじ)める。
春原(すのはら)「生(う)まれ持(も)っての資質(ししつ)っていうの?」
春原(すのはら)「そういうのには、結局(けっきょく)敵(かな)わないのかなぁ!」
男子生徒(だんしせいと)「すげぇなぁ」
春原(すのはら)「天才(てんさい)は違(ちが)うっていうかさ!」
春原(すのはら)「自分(じぶん)のことを天才(てんさい)って言(い)ってるわけじゃないよ」
春原(すのはら)「でも、天才(てんさい)って思(おも)われちゃうんだろうね!」
聞(き)いてるこっちが恥(は)ずかしくなってくる。
他人(たにん)の振(ふ)りをして、席(せき)についた。
昼休(ひるやす)み。
朋也(ともや)(なんで、まだおまえがここに来(く)るんだよ…)
春原(すのはら)「いやぁ、昨日(きのう)の僕(ぼく)はすごかったよねぇ、うんうん」
渚(なぎさ)「はい、春原(すのはら)さん、大活躍(だいかつやく)でした」
春原(すのはら)は嬉(うれ)しそうに、渚(なぎさ)と昨日(きのう)の試合(しあい)を振(ふ)り返(かえ)っていた。
春原(すのはら)「成功(せいこう)ってのは、努力(どりょく)じゃないんだよねぇ」
渚(なぎさ)「春原(すのはら)さん、努力(どりょく)もいっぱいしていました」
春原(すのはら)「はは、あんなの努力(どりょく)のうちに入(はい)らないさ」
春原(すのはら)「渚(なぎさ)ちゃん、僕(ぼく)はね…1%の努力(どりょく)と99%のセンスで成(な)し遂(と)げたんだよ」
どうしても天才(てんさい)と言(い)ってほしいらしい。
渚(なぎさ)「でも、春原(すのはら)さんは、たくさんのやる気(き)がありました。それはとても大(おお)きかったと思(おも)います」
春原(すのはら)「ああ、じゃ、20%ぐらいやる気(き)にするよ」
朋也(ともや)「後(あと)、自己顕示欲(じこけんじよく)な。それ30%ぐらい入(い)れろ」
渚(なぎさ)「春原(すのはら)さんがバスケが大好(だいす)きだったこともあると思(おも)います。バスケ大好(だいす)きも20%ぐらいお願(ねが)いしたいです」
朋也(ともや)「カレーのルーも入(い)れとけ。5%ぐらい」
渚(なぎさ)「友情(ゆうじょう)を忘(わす)れてました。素敵(すてき)な友情(ゆうじょう)を20%ぐらいお願(ねが)いします」
朋也(ともや)「後(あと)、3%ぐらい旬(しゅん)の野菜(やさい)な」
朋也(ともや)「ほら、計算(けいさん)し直(なお)せ」
朋也(ともや)「他(ほか)のが増(ふ)えたぶんはセンスから引(ひ)けよ」
春原(すのはら)「ええっと…すると、どうなるんだ…」
指折(ゆびお)り計算(けいさん)している。
春原(すのはら)「よぅし、できた」
春原(すのはら)「いいか、渚(なぎさ)ちゃん…」
渚(なぎさ)「はい」
春原(すのはら)「僕(ぼく)はね…」
春原(すのはら)「1%の努力(どりょく)と20%のやる気(き)と30%の自己顕示(じこけんじ)欲(よく)と20%のバスケ大好(だいす)きと20%の素敵(すてき)な友情(ゆうじょう)と…」
春原(すのはら)「5%のカレールーと3%の旬(しゅん)の野菜(やさい)と1%のセンスで成(な)し遂(と)げたんだよ」
春原(すのはら)「って、どんな奴(やつ)なんだよぉーっ!
内訳(うちわけ)の一部(いちぶ)がカレーになってるじゃないかよっ!」
渚(なぎさ)「とても素敵(すてき)な内訳(うちわけ)です」
春原(すのはら)「人(ひと)でないんですけどっ」
渚(なぎさ)「そんなことないです。春原(すのはら)さんのがんばりが詰(つ)まった内訳(うちわけ)です」
春原(すのはら)「頑張(がんば)りじゃなくて、センスだってのっ」
朋也(ともや)「そのセンスの占(し)める割合(わりあい)、旬(しゅん)の野菜(やさい)に負(ま)けてたな」
春原(すのはら)「おまえが入(い)れさせたんだろっ」
パンを食(た)べ終(お)えると、渚(なぎさ)が立(た)ち上(あ)がっていた。
春原(すのはら)「うん?
どうしたの?」
渚(なぎさ)「いえ、ちょっと気(き)になることがあるものですから…」
朋也(ともや)「なんだ、言(い)えよ」
渚(なぎさ)「ええとですね…」
渚(なぎさ)「今日(きょう)は、演劇部(えんげきぶ)の説明会(せつめいかい)の日(ひ)でした」
朋也(ともや)「ああ…」
その一言(いちげん)で俺(おれ)も思(おも)い出(だ)していた。
二週間前(にしゅうかんまえ)、ビラに書(か)いた説明会(せつめいかい)の期日(きじつ)、それが5月(がつ)最初(さいしょ)の日(ひ)…今日(きょう)だった。
でも、そのビラはもう剥(は)がされてなかったし…
そもそも演劇部(えんげきぶ)の再建(さいけん)のめども立(た)っていない。
そんな状況(じょうきょう)では、どうしようもなかったのだが…。
渚(なぎさ)「誰(だれ)か来(き)ていたら、申(もう)し訳(わけ)ないですので、見(み)に行(い)ってきます」
誰(だれ)もいない部室(ぶしつ)を見(み)て、虚(むな)しさを募(つの)らせるだけだろうに。
それでも、渚(なぎさ)の性格(せいかく)はよくわかっていたから、俺(おれ)は何(なに)も言(い)わずに立(た)ち上(あ)がる。
渚(なぎさ)「朋也(ともや)くんも、来(き)てもらえるんですか。ありがとうございます」
朋也(ともや)「俺(おれ)、お手伝(てつだ)いだしな」
朋也(ともや)「雑用(ざつよう)はどうする」
春原(すのはら)「誰(だれ)のことだよっ!」
朋也(ともや)「おまえ」
春原(すのはら)「行(い)くけどさっ」
渚(なぎさ)「ありがとうございます」
渚(なぎさ)「それでは、みんなで行(い)きましょう」
渚(なぎさ)「あ、誰(だれ)かいます」
渚(なぎさ)「入部希望者(にゅうぶきぼうしゃ)の方(かた)ですっ」
春原(すのはら)「いや、違(ちが)うよ…」
春原(すのはら)「合唱部(がっしょうぶ)の連中(れんちゅう)だ」
春原(すのはら)が忌々(いまいま)しく吐(は)き捨(す)てた。
渚(なぎさ)「仁科(にしな)さんと、杉坂(すぎさか)さん」
渚(なぎさ)が寄(よ)っていく。
渚(なぎさ)「今日(きょう)はどうしましたか」
仁科(にしな)「今日(きょう)はご相談(そうだん)にあがりました」
仁科(にしな)という子(こ)が静(しず)かに話(はなし)を始(はじ)めた。
それは、幸村(こうむら)に演劇部(えんげきぶ)と合唱部(がっしょうぶ)の顧問(こもん)を兼任(けんにん)してもらうという提案(ていあん)だった。
しかし本校(ほんこう)のルールでは、顧問(こもん)がいない時(とき)には活動(かつどう)をしてはいけないということだったので、活動(かつどう)は一週間(いっしゅうかん)交代(こうたい)で実施(じっし)するということだ。
仁科(にしな)「もし、それでもよろしければ…です」
渚(なぎさ)「それは、ぜんぜん…わたしとしては構(かま)いません」
渚(なぎさ)「とても、うれしいお話(はなし)です」
仁科(にしな)「それでは今週(こんしゅう)は私(わたし)たち合唱部(がっしょうぶ)の番(ばん)ということで、演劇部(えんげきぶ)の活動(かつどう)は来週(らいしゅう)ということでお願(ねが)いします」
渚(なぎさ)「あ、待(ま)ってください…」
仁科(にしな)「どうしました?」
渚(なぎさ)「実(じつ)は…」
渚(なぎさ)「演劇部(えんげきぶ)は部員(ぶいん)が足(た)りません」
苦々(にがにが)しく伝(つた)えた。
渚(なぎさ)「ですから…部(ぶ)として発足(ほっそく)することができないんです」
仁科(にしな)「三人(さんにん)いればいいんですよ。居(い)るじゃないですか」
渚(なぎさ)「違(ちが)います。朋也(ともや)くんと春原(すのはら)さんは…」
春原(すのはら)「部員(ぶいん)だ」
春原(すのはら)がそう告(つ)げていた。
渚(なぎさ)「え?」
春原(すのはら)「いいよ、部員(ぶいん)でさ。バスケ手伝(てつだ)ってもらったしな」
おまえいつからそんな爽(さわ)やかキャラに…。
渚(なぎさ)「本当(ほんとう)ですか?」
春原(すのはら)「ああ、でも、雑用(ざつよう)だ。舞台(ぶたい)には立(た)たないからな」
渚(なぎさ)「もちろん、構(かま)わないです。ありがとうございます」
こうなると、俺(おれ)も黙(だま)っているわけにはいかなかった。
朋也(ともや)「これで三人(さんにん)。揃(そろ)ったな」
渚(なぎさ)「えっ…朋也(ともや)くん、舞台(ぶたい)に立(た)ってくれるんですかっ」
朋也(ともや)「こらこら、段階(だんかい)を飛(と)ばすな。部員(ぶいん)として入(はい)ってやってもいいという意味(いみ)だ」
朋也(ともや)「俺(おれ)も舞台(ぶたい)になんて立(た)ちたかねぇ。考(かんが)えただけでぞっとする」
渚(なぎさ)「わかりました。構(かま)わないです。ありがとうございます」
朋也(ともや)「つーわけで、演劇部(えんげきぶ)、無事発足(ぶじほっそく)、というわけだな」
渚(なぎさ)「みなさん、ありがとうございます」
渚(なぎさ)「本当(ほんとう)に、ありがとうございます」
何度(なんど)も何度(なんど)も、渚(なぎさ)は頭(あたま)を下(さ)げた。
仁科(にしな)「それで、もしよかったら…」
仁科(にしな)は話(はなし)を続(つづ)けた。
仁科(にしな)「創立者祭(そうりつしゃさい)に出(で)ませんか、演劇部(えんげきぶ)も」
渚(なぎさ)「はい?」
春原(すのはら)「創立者祭(そうりつしゃさい)ってなんだっけ」
仁科(にしな)「………」
仁科(にしな)「本当(ほんとう)にこの学校(がっこう)の生徒(せいと)でしょうか」
朋也(ともや)「ああ、そうだよ。ただ、疎(うと)いだけだ。説明(せつめい)してやってくれ」
仁科(にしな)「要(よう)は創立者(そうりつしゃ)の誕生日(たんじょうび)です。その日(ひ)は午前中(ごぜんちゅう)から体育館(たいいくかん)で文化系(ぶんかけい)のクラブが発表会(はっぴょうかい)を行(おこな)います」
春原(すのはら)「午前中(ごぜんちゅう)か…知(し)らないのも無理(むり)ないや」
仁科(にしな)「いかがでしょうか、演劇部(えんげきぶ)も」
渚(なぎさ)「それは大変(たいへん)うれしいお誘(さそ)いです」
渚(なぎさ)「是非(ぜひ)出(で)たいです」
渚(なぎさ)「出(で)ましょう、朋也(ともや)くん、春原(すのはら)さん」
渚(なぎさ)が振(ふ)り返(かえ)って言(い)った。
朋也(ともや)「いや、出(で)るのはおまえだけだってば」
渚(なぎさ)「え…」
朋也(ともや)「俺(おれ)ら、雑用(ざつよう)。裏方(うらかた)だ」
朋也(ともや)「だから、おまえが出(で)たいって言(い)うんなら、出(で)ればいい。サポートはする」
渚(なぎさ)「それは…ひとりででしょうか…」
朋也(ともや)「ああ。ひとり芝居(しばい)ってのもありなんだろ?」
渚(なぎさ)「ありだとしてもです…それは少(すこ)し、いえ、かなり心細(こころぼそ)いです」
春原(すのはら)「イッセー尾形(おがた)みたいで格好(かっこう)いいじゃん」
朋也(ともや)「ありゃお笑(わら)いだろ」
春原(すのはら)「まぁ、そういう役者(やくしゃ)さんもたくさんいるってわけだ」
渚(なぎさ)「それは、そうですけど…」
仁科(にしな)「どうしますか?
残(のこ)り日数(にっすう)も少(すく)ないですし…やめておきますか?」
朋也(ともや)「いつなんだ?」
仁科(にしな)「5月(がつ)11日(にち)、日曜日(にちようび)です」
朋也(ともや)「後(あと)、10日(にち)?」
朋也(ともや)「無理(むり)だな…時間(じかん)がなさすぎる…」
仁科(にしな)「ひとつのクラブに割(わ)り当(あ)てられる時間(じかん)は20分(ぷん)ほどと少(すく)ないんです」
仁科(にしな)「ですから、そんなに凝(こ)ったものである必要(ひつよう)もないので、やる気(き)さえあれば大丈夫(だいじょうぶ)だと思(おも)いますよ」
渚(なぎさ)「………」
春原(すのはら)「どうすんだよ、渚(なぎさ)ちゃん」
渚(なぎさ)「もう少(すこ)し…考(かんが)えていいですか」
仁科(にしな)「それは構(かま)いません。もし出(で)るのであれば、幸村先生(こうむらせんせい)にお話(はな)し下(くだ)さい」
渚(なぎさ)「わかりました」
仁科(にしな)「それでは、同(おな)じ舞台(ぶたい)に立(た)てることを期待(きたい)して、待(ま)ってますね」
渚(なぎさ)「はい、前向(まえむ)きに考(かんが)えます」
渚(なぎさ)「今日(きょう)は本当(ほんとう)にありがとうございました」
合唱部(がっしょうぶ)のふたりが退室(たいしつ)する。
春原(すのはら)「やったじゃん、僕(ぼく)のおかげだね、渚(なぎさ)ちゃん」
渚(なぎさ)「はい、ありがとうございます」
渚(なぎさ)は、いつまででも礼(れい)を言(い)ってそうだ。
でも、俺(おれ)は思(おも)った。
朋也(ともや)「もし3on3なんてしなくてもさ…」
春原(すのはら)「あん?」
朋也(ともや)「結局(けっきょく)、こうなってたんじゃないかな。そんな気(き)がするよ、俺(おれ)は」
渚(なぎさ)「はい。わたしもそう思(おも)います」
渚(なぎさ)も同意(どうい)した。
渚(なぎさ)「もちろん、春原(すのはら)さんのしてくれたことも意味(いみ)があったと思(おも)います」
渚(なぎさ)「でも、やっぱり仁科(にしな)さんや杉坂(すぎさか)さんは…こうしてくれていたと思(おも)います」
春原(すのはら)「それはない。僕(ぼく)があいつらの目(め)を覚(さ)まさせてやったんだ」
朋也(ともや)「おまえ、素直(すなお)に納得(なっとく)しとけっ」
ぽかっ!と一発(いっぱつ)殴(なぐ)っておく。
春原(すのはら)「いてぇな!
なにするんだよっ」
部室(ぶしつ)を出(で)て、教室(きょうしつ)に戻(もど)る間(あいだ)、俺(おれ)は考(かんが)えていた。
もし渚(なぎさ)が発表会(はっぴょうかい)の話(はなし)を受(う)けてしまったら…
そうしたら、また、ふたりで過(す)ごす恋人同士(こいびとどうし)らしい時間(じかん)はお預(あず)けとなるだろう。
それを考(かんが)えると複雑(ふくざつ)な気分(きぶん)だった。
でも、俺(おれ)は…
朋也(ともや)「おまえさ、俺(おれ)にはバスケやらせといてさ…」
朋也(ともや)「いざ自分(じぶん)がその立場(たちば)になって、迷(まよ)ってんじゃねぇよ」
足(あし)を止(と)め、そう叱咤(しった)していた。
渚(なぎさ)「………」
渚(なぎさ)「そう…ですよね」
朋也(ともや)「おまえの夢(ゆめ)だったんだろ、学校生活(がっこうせいかつ)の」
渚(なぎさ)「そうです。夢(ゆめ)でした」
朋也(ともや)「ずっと、学芸会(がくげいかい)にさえ出(で)られずにさ…ここまできて…」
朋也(ともや)「それでようやく、その夢(ゆめ)が叶(かな)えられるところまできたんじゃないか」
渚(なぎさ)「はい」
朋也(ともや)「なに迷(まよ)ってんだよ、馬鹿(ばか)」
朋也(ともや)「夢中(むちゅう)で掴(つか)めよ」
渚(なぎさ)「ありがとうございます」
渚(なぎさ)「そうやって言(い)われないとわからないなんて、ダメな子(こ)です、わたし」
渚(なぎさ)「今日(きょう)から練習(れんしゅう)、がんばります」
渚(なぎさ)「がんばって、創立者祭(そうりつしゃさい)の日(ひ)には、立派(りっぱ)に劇(げき)を発表(はっぴょう)してみせます」
朋也(ともや)「ああ、頑張(がんば)れよ」
朋也(ともや)「がむしゃらにやらないと、成功(せいこう)しないぞ」
渚(なぎさ)「はい、がむしゃらにがんばります」
朋也(ともや)「はぁ…」
気(き)づかれないようにため息(いき)をつく。
朋也(ともや)(今日(きょう)からは練習(れんしゅう)ざんまいか…)
担任(たんにん)「おい、岡崎(おかざき)」
授業(じゅぎょう)が終(お)わると同時(どうじ)、担任(たんにん)に呼(よ)び止(と)められた。
朋也(ともや)「………」
俺(おれ)は返事(へんじ)もせず、担任(たんにん)が寄(よ)ってくるのを待(ま)っていた。
担任(たんにん)「なぁ、岡崎(おかざき)。今日(きょう)、おまえの家(うち)にいくぞ」
朋也(ともや)「はぁっ?」
俺(おれ)はそのあまりにぶっ飛(と)んだ提案(ていあん)に、素(す)っ頓狂(とんきょう)な声(こえ)をあげてしまう。
担任(たんにん)「おまえだけ、進路相談(しんろそうだん)が終(お)わっていない」
朋也(ともや)「んなもん、どうだっていいでしょ」
担任(たんにん)「いいわけあるか。進学(しんがく)しないにしても、必要(ひつよう)だ」
担任(たんにん)「おまえん家(うち)、あれだろ。親父(おやじ)さんだけだろ?」
朋也(ともや)「ああ…」
担任(たんにん)「どうして、連絡(れんらく)つかないんだ?
いるんだろ?」
朋也(ともや)「いねぇよ」
担任(たんにん)「いないわけないだろ。なんだ、ずっと帰(かえ)っていないのか」
朋也(ともや)「ああ…」
担任(たんにん)「じゃあ、確(たし)かめに行(い)ってやるから、ここで待(ま)ってろ。支度(したく)してくるからな」
そう言(い)うと、担任(たんにん)は教室(きょうしつ)を駆(か)け足(あし)で出(で)ていった。
………。
…冗談(じょうだん)じゃない。
俺(おれ)は教室(きょうしつ)から飛(と)び出(だ)す。
そこで渚(なぎさ)が待(ま)っていた。
渚(なぎさ)「あの…これから練習(れんしゅう)しますっ、付(つ)き合(あ)っていただけますかっ」
朋也(ともや)「馬鹿(ばか)、んなもんやめろ。とっとと帰(かえ)るぞっ」
渚(なぎさ)「えっ?」
渚(なぎさ)「朋也(ともや)くん、さっきと言(い)ってること、ぜんぜん違(ちが)いますっ…」
朋也(ともや)「いいんだよっ、とにかく学校(がっこう)から離(はな)れるんだっ」
渚(なぎさ)「朋也(ともや)くん、夢中(むちゅう)でつかめって…そう言(い)ってくれました」
渚(なぎさ)「迷(まよ)ってたわたしは…その言葉(ことば)で目(め)が覚(さ)めたんです」
朋也(ともや)「もう一度(いちど)眠(ねむ)れっ」
渚(なぎさ)「朋也(ともや)くん、言(い)ってることヘンです、おかしいですっ」
朋也(ともや)「とにかく、急(いそ)いでここを離(はな)れないとっ」
俺(おれ)は渚(なぎさ)の腕(うで)をひっ掴(つか)むと、そのまま走(はし)り出(だ)した。
朋也(ともや)「ふぅ…」
とりあえずこの場所(ばしょ)は見(み)つけられないだろう。
渚(なぎさ)「朋也(ともや)くん、ヘンです。急(きゅう)に腕(うで)、引(ひ)っ張(ぱ)ったりして…」
朋也(ともや)「おまえと急(いそ)いでふたりきりになりたかったんだよ」
渚(なぎさ)「嘘(うそ)です。そんな素振(そぶ)りなかったです」
朋也(ともや)「俺(おれ)はあまのじゃくなんだよ」
渚(なぎさ)「信(しん)じられないです…」
朋也(ともや)「いや、ほんとだって…」
言(い)い聞(き)かせるため、俺(おれ)は渚(なぎさ)の顔(かお)に自分(じぶん)の顔(かお)を近(ちか)づける。
渚(なぎさ)「しんじ…られないです…」
ああ…
この場(ば)を取(と)り繕(つくろ)うつもりで言(い)ったはずだったのに、本当(ほんとう)に気持(きも)ちが抑(おさ)えられなくなってきた…。
こうして見(み)ると、渚(なぎさ)、可愛(かわい)いし…
つーか、いつも可愛(かわい)いけどさ…
さらに顔(かお)を寄(よ)せる。
渚(なぎさ)「えっ…」
渚(なぎさ)が体(からだ)を硬直(こうちょく)させる。
後(うし)ろに下(さ)がれるのに、下(さ)がらないんだな…。
初(はじ)めてが部室(ぶしつ)だってのも、悪(わる)くない…。
そのまま俺(おれ)は渚(なぎさ)の口(くち)に自分(じぶん)の口(くち)を…
『3-Dの岡崎朋也(おかざきともや)、至急(しきゅう)職員室(しょくいんしつ)まで来(き)なさい』
…校内放送(こうないほうそう)。
朋也(ともや)「え…」
渚(なぎさ)「あ…」
渚(なぎさ)「朋也(ともや)くん、呼(よ)ばれてます…」
朋也(ともや)「いや…別人(べつじん)じゃねぇかな…」
渚(なぎさ)「学年(がくねん)もクラスも合(あ)ってました」
朋也(ともや)「そうだっけか…?」
渚(なぎさ)「あの…わたし、少(すこ)し落(お)ち込(こ)みます…」
渚(なぎさ)「本当(ほんとう)はかなり、ですけど…」
朋也(ともや)「いや、今(いま)のは本当(ほんとう)に渚(なぎさ)が可愛(かわい)いかったから、思(おも)わずさ…」
渚(なぎさ)「朋也(ともや)くん、嘘(うそ)つきです…」
渚(なぎさ)「早(はや)く行(い)ってきてください」
渚(なぎさ)「先生(せんせい)に怒(おこ)られます」
朋也(ともや)「いいんだよ、あんなの」
渚(なぎさ)「ダメですっ」
結局(けっきょく)、渚(なぎさ)に付(つ)き添(そ)われて、職員室(しょくいんしつ)へ…。
朋也(ともや)(ああ…恋愛(れんあい)シミュレーションだったら、愛情度(あいじょうど)-200ってな、イベントだな…)
となると、フォローは…
デートに誘う
朋也(ともや)「よし、今度(こんど)デートしよう」
渚(なぎさ)「え?
デートですか?」
朋也(ともや)「ああ。嬉(うれ)しいだろ」
渚(なぎさ)「はい、うれしいです」
渚(なぎさ)「でも、しばらくそんな時間(じかん)、持(も)てないです…」
渚(なぎさ)「その…創立者祭(そうりつしゃさい)までは」
朋也(ともや)「そうか…そうだよな」
あまり意味(いみ)がなかったようだ。
渚(なぎさ)「でも、それが終(お)われば、一段落(いちだんらく)つけますので、したいです…デート」
渚(なぎさ)の口(くち)からデートと聞(き)くと、ものすごく可愛(かわい)らしいものに思(おも)えた。
朋也(ともや)(ま、実際(じっさい)、可愛(かわい)らしいデートなんだろうけどな…)
渚(なぎさ)「つきました」
気(き)づけば職員室(しょくいんしつ)の前(まえ)だった。
朋也(ともや)「だな…」
朋也(ともや)「………」
渚(なぎさ)「入(はい)りましょう」
突(つ)っ立(た)っている俺(おれ)の手(て)を引(ひ)いて、渚(なぎさ)がドアを開(あ)けた。
担任(たんにん)「なんだ、岡崎(おかざき)、女(おんな)の子(こ)なんて連(つ)れて」
朋也(ともや)「いや、連(つ)れてこられたんだよ…」
担任(たんにん)「なにっ?」
渚(なぎさ)「はい。朋也(ともや)くん、嘘(うそ)つきですから」
担任(たんにん)「はは、これは面白(おもしろ)い絵(え)だなぁ。あの岡崎(おかざき)が、女(おんな)の尻(しり)に敷(し)かれてるなんて」
渚(なぎさ)「あ、いえっ…ぜんぜん敷(し)いてないですっ」
渚(なぎさ)「どちらかというと、普段(ふだん)は朋也(ともや)くんに引(ひ)っ張(ぱ)ってもらってます」
こいつは、付(つ)き合(あ)ってることを言(い)って回(まわ)りたいのだろうか…。
担任(たんにん)「うん?
なんだ、おまえたち、付(つ)き合(あ)ってるのか」
見(み)ろ…バレてるし…。
渚(なぎさ)「いえっ…そんなことは…」
渚(なぎさ)「とは言(い)っても、付(つ)き合(あ)ってないということではないです…」
…それ、思(おも)いっきり肯定(こうてい)してますが。
担任(たんにん)「岡崎(おかざき)も丸(まる)くなったもんだなぁ」
担任(たんにん)「これは、進学(しんがく)させる余地(よち)も出(で)てきたってもんだ」
俺(おれ)は渚(なぎさ)の肘(ひじ)の辺(あた)りをつねっておく。
渚(なぎさ)「痛(いた)いです、朋也(ともや)くんっ」
全然(ぜんぜん)わかっちゃいねぇし…。
担任(たんにん)「では、行(い)こうか、朋也(ともや)くん」
朋也(ともや)「ちっ…」
渚(なぎさ)「どこに行(い)くんですか?」
担任(たんにん)「こいつの家(うち)だよ。進路相談(しんろそうだん)」
担任(たんにん)「君(きみ)、一緒(いっしょ)に来(き)てくれるの?
だったら、こいつが逃(に)げないで済(す)みそうだから、ありがたいけど」
渚(なぎさ)「いいんでしょうか」
朋也(ともや)「こらこら、おまえは演劇(えんげき)の練習(れんしゅう)があるだろっ」
渚(なぎさ)「あ、そうです。それも大切(たいせつ)です」
朋也(ともや)「そっちのほうが大切(たいせつ)、だろっ」
朋也(ともや)「さぼってんじゃねーぞ、ったく…」
渚(なぎさ)「いつもの朋也(ともや)くんです」
渚(なぎさ)「安心(あんしん)しました」
朋也(ともや)「そっかよ…」
担任(たんにん)「君(きみ)、よくこんな口(くち)の悪(わる)いのに耐(た)えられるなぁ…」
渚(なぎさ)「慣(な)れです」
担任(たんにん)「普通(ふつう)は、慣(な)れる前(まえ)に恐(こわ)くて近寄(ちかよ)れないと思(おも)うよ」
担任(たんにん)「よっぽど好(す)きだったんだねぇ」
渚(なぎさ)「い、いえ…」
渚(なぎさ)「あ、いえ…すごく好(す)きでした…はい」
朋也(ともや)「こらこら、教師(きょうし)が生徒(せいと)と浮(う)いた話(はなし)をするなっ」
担任(たんにん)「いいじゃないか、おまえの彼女(かのじょ)なんて興味(きょうみ)津々(しんしん)だよ」
朋也(ともや)「渚(なぎさ)、とっとと練習(れんしゅう)にいけっ」
渚(なぎさ)「あ、はい。そうでした」
渚(なぎさ)「では、練習(れんしゅう)してきます」
朋也(ともや)「ああ」
渚(なぎさ)「それでは、失礼(しつれい)します」
渚(なぎさ)は笑顔(えがお)を残(のこ)して去(さ)っていった。
担任(たんにん)「よし。じゃ、いくか、岡崎(おかざき)」
朋也(ともや)「くそっ…」
担任(たんにん)「なぁ、岡崎(おかざき)」
朋也(ともや)「あん?」
担任(たんにん)「小(ちい)さい頃(ころ)から、親父(おやじ)さんひとりなんだろ?」
朋也(ともや)「ああ」
担任(たんにん)「苦労(くろう)されたんだろうなぁ」
担任(たんにん)「男手(おとこで)ひとつで、おまえみたいな子(こ)、育(そだ)てるなんてなぁ」
朋也(ともや)「さぁね…」
こんな話(はなし)、してたくなかった。
担任(たんにん)「でもまあ、おまえも人並(ひとな)みに彼女(かのじょ)を作(つく)って、人並(ひとな)みに学園(がくえん)生活(せいかつ)を謳歌(おうか)してるみたいだしな…」
担任(たんにん)「このまま、親(おや)に心配(しんぱい)かけないよう、進学(しんがく)しないと駄目(だめ)だぞ?」
まだ辺(あた)りには下校中(げこうちゅう)の生徒(せいと)がいた。
教師(きょうし)に連(つ)れられて歩(ある)く姿(すがた)を見(み)られるのは、なんと屈辱的(くつじょくてき)なことか…。
親父(おやじ)は、この時間(じかん)はいないはずだった。
昔(むかし)の仲間(なかま)の仕事場(しごとば)へ押(お)し掛(か)けて、話(はな)し込(こ)んでいることが多(おお)い。
朋也(ともや)「たぶん、いねぇよ」
担任(たんにん)「いいから、いくぞ」
呼(よ)び鈴(りん)を押(お)した。
…返事(へんじ)はない。
朋也(ともや)「ほら、いない」
担任(たんにん)「じゃ、中(なか)で待(ま)たせてもらう」
朋也(ともや)「マジかよ…」
担任(たんにん)「それが仕事(しごと)だ。明日(あした)の朝(あさ)までだって、待(ま)つぞ」
とんでもない話(ばなし)だった。
朋也(ともや)「あのさ…」
担任(たんにん)「うん?」
朋也(ともや)「家(いえ)の鍵(かぎ)、親父(おやじ)が持(も)ってんだけど」
担任(たんにん)「なに?
本当(ほんとう)か?」
入(い)れてたまるか。
朋也(ともや)「だから、今日(きょう)は諦(あきら)めたほうがいいよ」
担任(たんにん)「いや、なら、ここで待(ま)つ」
朋也(ともや)「マジ?」
担任(たんにん)「ああ」
朋也(ともや)「夜(よる)遅(おそ)いかもしれないぜ?」
担任(たんにん)「だから、いくらでも待(ま)つと言(い)ってるだろ」
朋也(ともや)「………」
担任(たんにん)「おまえも一緒(いっしょ)に待(ま)つんだぞ」
朋也(ともや)「げ…」
担任(たんにん)「何(なに)を言(い)ってるんだ、おまえの家(いえ)だろ?」
担任(たんにん)「入(はい)れなかったら、おまえだって、困(こま)るだろ」
朋也(ともや)「あ、ああ…そうだな…」
朋也(ともや)「だったら…」
朋也(ともや)「俺(おれ)、親父(おやじ)の奴(やつ)、探(さが)してくるなっ」
身(み)を翻(ひるがえ)し、ダッシュ。
担任(たんにん)「こらっ!」
全速力(ぜんそくりょく)で、その場(ば)から逃(に)げ出(だ)した。
追(お)ってこない。
家(いえ)の前(まえ)で待(ま)ち構(かま)えていれば、いずれ親父(おやじ)も俺(おれ)も捕(つか)まえられる、という考(かんが)えだろう。
朋也(ともや)「甘(あま)いな…」
口(くち)に出(だ)して言(い)ってやった。
俺(おれ)は家(いえ)に帰(かえ)らずして、一(いっ)ヶ月(げつ)だって登校(とうこう)してやる自信(じしん)がある。
むさ苦(くる)しい同居人(どうきょにん)の存在(そんざい)に目(め)を瞑(つぶ)れば、寝床(ねどこ)だって確保(かくほ)できる。
その前(まえ)に、俺(おれ)は渚(なぎさ)の練習(れんしゅう)を見(み)に行(い)くことにした。
朋也(ともや)(さっきは、-200しちまったからなぁ…)
朋也(ともや)(練習(れんしゅう)に付(つ)き合(あ)ってやって、愛情度(あいじょうど)+300で挽回(ばんかい)か?)
朋也(ともや)(そしてそのまま、さっきの展開(てんかい)が…)
間近(まぢか)で見(み)た、渚(なぎさ)の顔(かお)が脳裏(のうり)に浮(う)かぶ。
朋也(ともや)「渚(なぎさ)、今(いま)、行(い)くからなっ」
学校(がっこう)への道(みち)を急(いそ)ぐ。
渚(なぎさ)「はい、朋也(ともや)くん、一緒(いっしょ)に家(いえ)に行(い)きましょう」
…甘(あま)いのは俺(おれ)だった。
渚(なぎさ)「逃(に)げてきたんですよね」
朋也(ともや)「いや、終(お)わったんだ。親父(おやじ)、いなかったから…」
渚(なぎさ)「じゃ、確(たし)かめにいってもいいですか」
朋也(ともや)「………」
渚(なぎさ)「朋也(ともや)くん、嘘(うそ)ついてなかったら、いいはずです」
朋也(ともや)(マジ、尻(しり)に敷(し)かれてる気(き)がしてきたぞ…)
渚(なぎさ)「いきましょう」
朋也(ともや)「おまえ、練習(れんしゅう)は」
渚(なぎさ)「練習(れんしゅう)はどこでだってできます」
渚(なぎさ)は俺(おれ)の片腕(かたうで)を掴(つか)んだまま、鞄(かばん)を持(も)った。
これで、また俺(おれ)が嘘(うそ)をついてることがばれたら…さらに愛情度(あいじょうど)マイナスか…。
朋也(ともや)「はぁ…」
俺(おれ)はため息(いき)をついて、立(た)ち止(ど)まっていた。
朋也(ともや)「なぁ、俺(おれ)、また嘘(うそ)ついた」
渚(なぎさ)「え?」
朋也(ともや)「終(お)わってねぇよ、まだ…」
朋也(ともや)「担任(たんにん)の奴(やつ)が、俺(おれ)ん家(いえ)の前(まえ)で待(ま)ってる」
渚(なぎさ)「やっぱり、そうですか」
朋也(ともや)「なぁ…」
渚(なぎさ)「はい?」
朋也(ともや)「今(いま)、愛情度(あいじょうど)、数字(すうじ)で表(あらわ)したらどれぐらい?」
渚(なぎさ)「なんですか、それ?」
朋也(ともや)「よくゲームであるじゃん。パラメータみたいなの」
朋也(ともや)「嘘(うそ)がばれたりしたら、機嫌(きげん)が悪(わる)くなって、減(へ)るんだよ」
渚(なぎさ)「わたしの、朋也(ともや)くんに対(たい)する数字(すうじ)がですか?」
朋也(ともや)「そう」
渚(なぎさ)「そんなの、減(へ)らないです」
朋也(ともや)「え?」
渚(なぎさ)「ずっと、満(まん)タンです」
朋也(ともや)「今(いま)も?」
渚(なぎさ)「今(いま)もです。そんなの、減(へ)りっこないです」
朋也(ともや)「マジかよ…」
渚(なぎさ)「本当(ほんとう)です」
渚(なぎさ)「だから、朋也(ともや)くん、苦労(くろう)すると思(おも)います」
朋也(ともや)「どうして」
渚(なぎさ)「たぶん、ずっと減(へ)らないからです」
朋也(ともや)「………」
朋也(ともや)「そっかよ…」
渚(なぎさ)「…はい」
渚(なぎさ)「でも、わたしは…朋也(ともや)くんのほうが減(へ)っちゃうんじゃないかって…」
渚(なぎさ)「それが心配(しんぱい)です」
渚(なぎさ)「とても、心配(しんぱい)です」
朋也(ともや)「いや、大丈夫(だいじょうぶ)じゃねぇかな」
渚(なぎさ)「どうしてですか?」
朋也(ともや)「だって、現実(げんじつ)だからな」
朋也(ともや)「んな数字(すうじ)、どこにもねぇから」
渚(なぎさ)「だったら、うれしいです」
渚(なぎさ)「でも…」
朋也(ともや)「ん?」
渚(なぎさ)「でも、現実(げんじつ)だからこそ…」
渚(なぎさ)「辛(つら)いことだって、たくさんあるはずです」
朋也(ともや)「ああ…そうだな」
渚(なぎさ)「でも、ひとりじゃないから、乗(の)り越(こ)えていけるんです」
渚(なぎさ)「人(ひと)は…」
乗(の)り越(こ)えていけるのだろうか。
俺(おれ)は、渚(なぎさ)と。
渚(なぎさ)「だから、行(い)きましょう。はいっ」
渚(なぎさ)が俺(おれ)の背中(せなか)を押(お)した。
そこが、最後(さいご)の角(かど)だと知(し)っていたかのように。
でも、知(し)らなかったはずだ。
知(し)っていたら、そんな思(おも)いきったことはできなかっただろうから。
親父(おやじ)がいた。
担任(たんにん)と話(はなし)をしていた。
その目(め)が困(こま)っていた。
何(なに)かを必死(ひっし)で説明(せつめい)しているようだった。
でも、親父(おやじ)は涼(すず)しげな顔(かお)をしていた。
声(こえ)が聞(き)こえてきた。
親父(おやじ)「だから、それは私(わたし)が決(き)めることじゃない」
親父(おやじ)「朋也(ともや)くんは、朋也(ともや)くん」
親父(おやじ)「彼(かれ)が決(き)めることです」
担任(たんにん)「ですが、まだ彼(かれ)は学生(がくせい)でして、保護者(ほごしゃ)の意見(いけん)も…」
親父(おやじ)「いえ、違(ちが)います」
親父(おやじ)「朋也(ともや)くんは、朋也(ともや)くんです」
なんて、優(やさ)しい顔(かお)で…
なんて、辛(つら)いことを言(い)うのだろう、この人(ひと)は…。
………。
そう…
俺(おれ)は、それを確(たし)かめたくなかったのだ…。
親父(おやじ)と俺(おれ)が、家族(かぞく)ではない、他人同士(たにんどうし)でいること…。
それは俺(おれ)と親父(おやじ)だけのゲームなのか…。
ふたりきりの時(とき)だけに行(おこな)われるゲームなのか…。
でも、もし…
第三者(だいさんしゃ)も交(まじ)えて…
そんなゲームが行(おこな)われたなら…
それはもう、ゲームなんかじゃない。
現実(げんじつ)だ。
渚(なぎさ)「………」
渚(なぎさ)もじっと、その様子(ようす)を見(み)ていた。
朋也(ともや)「なぁ、渚(なぎさ)…」
朋也(ともや)「おまえは、喧嘩(けんか)してても、分(わ)かり合(あ)えてるならいいって言(い)ったよな…」
渚(なぎさ)「はい…」
朋也(ともや)「喧嘩(けんか)すら、できないんだよ、俺(おれ)とあの人(ひと)は…」
朋也(ともや)「見(み)ろよ、あの担任(たんにん)の困(こま)った顔(かお)をさ…」
朋也(ともや)「あの人(ひと)の中(なか)ではさ…俺(おれ)は息子(むすこ)じゃないんだ」
朋也(ともや)「もうずっと前(まえ)から…」
朋也(ともや)「自分(じぶん)の中(なか)で、放棄(ほうき)したままでさ…」
朋也(ともや)「もう、何年(なんねん)も経(た)ってるんだ…」
渚(なぎさ)「………」
朋也(ともや)「それをさ…時間(じかん)が解決(かいけつ)してくれるのか…?」
朋也(ともや)「なぁ、渚(なぎさ)…」
朋也(ともや)「なんとか言(い)ってくれよ…」
渚(なぎさ)「………」
渚(なぎさ)「すみませんでした…」
渚(なぎさ)「事情(じじょう)も知(し)らないで…軽率(けいそつ)でした…」
違(ちが)う…
謝(あやま)ってほしくなんてないんだ、俺(おれ)は…。
朋也(ともや)「ずっと…自分(じぶん)の居場所(いばしょ)がなかったんだ…」
支(ささ)えてほしいんだ。
今(いま)、崩(くず)れそうな、俺(おれ)を支(ささ)えてほしいんだ。
渚(なぎさ)「………」
渚(なぎさ)「あの、朋也(ともや)くん…」
渚(なぎさ)「辛(つら)いなら…」
渚(なぎさ)「わたしの家(いえ)に…来(き)ますか」
朋也(ともや)「………」
朋也(ともや)「…ああ」
今度(こんど)は素直(すなお)に頷(うなず)いた。
あの時(とき)とはもう違(ちが)う。
渚(なぎさ)は俺(おれ)の彼女(かのじょ)で、俺(おれ)は渚(なぎさ)の彼氏(かれし)で…。
…そばにいてほしかった。
渚(なぎさ)「でも、わたしは朋也(ともや)くんのお父(とう)さんも心配(しんぱい)です…」
朋也(ともや)「あの人(ひと)は、ああしてひとりで暮(く)らしてきたんだ」
朋也(ともや)「同(おな)じ屋根(やね)の下(した)で、別々(べつべつ)に、暮(く)らしてきたんだ」
朋也(ともや)「あの人(ひと)だけは、ああやって、穏(おだ)やかに笑(わら)ってさ…」
朋也(ともや)「自分(じぶん)の殻(から)に閉(と)じこもって、ひとりで生(い)きてきたんだ」
朋也(ともや)「だから、大丈夫(だいじょうぶ)なんだ」
渚(なぎさ)「そう…ですか…」
朋也(ともや)「ああ」
渚(なぎさ)「でも、たまには…」
朋也(ともや)「…ああ」
朋也(ともや)「わかってるよ、渚(なぎさ)…」
おまえの他人(たにん)を思(おも)う優(やさ)しさは…。
だから、俺(おれ)はおまえと居(い)る。
渚(なぎさ)「それでは…もう、いきますか…?」
朋也(ともや)「ああ…」
ふたりの大人(おとな)を残(のこ)し…俺(おれ)たちは、その場(ば)を後(あと)にした。
乗(の)り越(こ)えていけるのだろうか。
俺(おれ)は、渚(なぎさ)と。
0
seagull 最后编辑于 2009-08-03 14:21:26
がんばれるなら、がんばるべきなんです。
進めるなら、前に進むべきなんです。
clannad渚线剧本注音完成(rc版发布)
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seagull
海鸥
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来自:幻想世界
性别:土豆
生日:1988-06-11
注册: 2009-01-18
精华:1
学分:0 个
好人卡:35 张
好感度:55
[辽宁省沈阳市]
seagull
2009-05-14 21:47
|
只看楼主
52
#
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t
T
回复: clannad渚线剧本注音计划
5月2日
(
金
)
早朝(そうちょう)。
いつものように、親父(おやじ)は居間(いま)で転(ころ)がっていた。
朋也(ともや)「なぁ、親父(おやじ)」
小(ちい)さく上下(じょうげ)する肩(かた)に触(ふ)れる。
電話(でんわ)でも手紙(てがみ)でもよかったのだが、渚(なぎさ)がそれを許(ゆる)さなかった。
──絶対(ぜったい)に会(あ)って、少(すこ)しの間(あいだ)、帰(かえ)らないことを伝(つた)えてください。
それは、そうすることだけで、解決(かいけつ)してしまうかもしれない、というあいつの浅(あさ)はかな考(かんが)えによるところだ。
そんなことでは何(なに)も変(か)わらない。
俺(おれ)はそれがよくわかっていた。
親父(おやじ)「ん…」
寝言(ねごと)か何(なに)かわからなかったが、親父(おやじ)が小(ちい)さくうめいた。
朋也(ともや)「俺(おれ)、家(いえ)を出(で)るから…」
それを一方的(いっぽうてき)に目覚(めざ)めたと判断(はんだん)して、俺(おれ)は話(はなし)を始(はじ)めた。
朋也(ともや)「しばらくは帰(かえ)ってこないつもりだから…」
朋也(ともや)「ひとりで元気(げんき)にやってくれよ…」
それだけを伝(つた)えて、俺(おれ)は親父(おやじ)のそばから離(はな)れる。
そして、荷物(にもつ)をとりに、自分(じぶん)の部屋(へや)へと向(む)かった。
持(も)てるだけの着替(きが)えと、学習用具(がくしゅうようぐ)。
それだけをスポーツバッグに詰(つ)め込(こ)むと、すぐに部屋(へや)を出(で)る。
居間(いま)を通(かよ)って玄関(げんかん)へ…
ぎっ、と背後(はいご)で床(ゆか)がきしむ音(おと)がした。
振(ふ)り返(かえ)らざるをえない俺(おれ)。
朋也(ともや)「おはよう」
平静(へいせい)を装(よそお)う。
親父(おやじ)「朋也(ともや)くん…どこかへいくのかい」
朋也(ともや)「友達(ともだち)の家(いえ)に…」
親父(おやじ)「その割(わり)には大(おお)きな鞄(かばん)を持(も)っていくんだね」
朋也(ともや)「ああ。そこにしばらく泊(と)めてもらうことにした」
朋也(ともや)「いつ帰(かえ)ってくるかは、決(き)めてない」
親父(おやじ)「そう…寂(さび)しくなるね」
親父(おやじ)「朋也(ともや)くんは…いい話(はな)し相手(あいて)だったからね」
走(はし)って逃(に)げ出(だ)したかった。
朋也(ともや)「こっちにも都合(つごう)があるんだよ。わかってくれ…」
押(お)し殺(ころ)した声(こえ)でそう言(い)う。
最後(さいご)は…最後(さいご)まで平静(へいせい)でいよう…。
親父(おやじ)「そうだね…」
朋也(ともや)「じゃあ、いくから」
俺(おれ)は背中(せなか)を向(む)ける。
いつも帰(かえ)る場所(ばしょ)だった家(いえ)。
今(いま)だけは、違(ちが)う。
どれだけ時間(じかん)がかかるかわからなかったけど…
いつかは戻(もど)ってこれる日(ひ)がくるのだろうか。
朋也(ともや)(こんなにも、後(うし)ろ向(む)きな俺(おれ)が…)
朋也(ともや)(逃(に)げ出(だ)しただけじゃないかっ…)
だから最後(さいご)にこう告(つ)げた。
朋也(ともや)「さようなら、父(とう)さん」
俺(おれ)は歩(ある)き出(だ)した。
まだ7時(じ)を回(まわ)ったところだというのに、すでに古河(ふるかわ)パンは、朝(あさ)の喧噪(けんそう)の中(なか)にある。
朋也(ともや)「あのっ」
大(おお)きな箱(はこ)を抱(かか)えて行(い)き過(す)ぎようとしたオッサンを呼(よ)び止(と)めた。
秋生(あきお)「ん?
なんだ、てめぇは、こんな朝(あさ)早(はや)くに」
朋也(ともや)(え…)
朋也(ともや)(渚(なぎさ)の奴(やつ)…もしかして、話(はなし)を通(とお)してくれてないのか…?)
秋生(あきお)「………」
じっと、睨(にら)まれる。
今日(きょう)から厄介(やっかい)になります、なんて、とても言(い)える状況(じょうきょう)じゃない…。
秋生(あきお)「早(はや)く用件(ようけん)を言(い)え」
朋也(ともや)「あの、渚(なぎさ)は…?」
秋生(あきお)「まだ寝(ね)てるよ」
朋也(ともや)(…渚(なぎさ)、おまえって奴(やつ)は…)
秋生(あきお)「どうしたよ」
朋也(ともや)「いや…」
秋生(あきお)「用(よう)がないんなら、帰(かえ)れよ。仕事(しごと)の邪魔(じゃま)だ」
朋也(ともや)(ぐあーっ…どうすりゃいいんだ…)
まさに蛇(へび)に睨(にら)まれた蛙(かえる)状態(じょうたい)。
早苗(さなえ)「おはようございます、岡崎(おかざき)さん」
奥(おく)から早苗(さなえ)さんが姿(すがた)を見(み)せた。
朋也(ともや)「おはようっす」
早苗(さなえ)「今日(きょう)からよろしくお願(ねが)いしますね」
その言葉(ことば)に俺(おれ)は、全身(ぜんしん)の力(ちから)が抜(ぬ)けるほどに安堵(あんど)する。
早苗(さなえ)さんは、ちゃんと知(し)っていたのだ。
朋也(ともや)「こちらこそお世話(せわ)になります」
秋生(あきお)「あぁん?
お世話(せわ)ってなんだよ」
早苗(さなえ)「今日(きょう)からしばらく、家(いえ)に泊(と)まられるんですよ、秋生(あきお)さん」
秋生(あきお)「なんだとぅーーっ!?」
早苗(さなえ)「夕(ゆう)べ、渚(なぎさ)から聞(き)いたじゃないですかっ」
秋生(あきお)「まぁな」
ずるぅぅっ!
俺(おれ)は思(おも)いきり滑(すべ)る。
朋也(ともや)(この人(ひと)は知(し)っていて、あんな態度(たいど)を…)
早苗(さなえ)「了承(りょうしょう)していましたよ、秋生(あきお)さん」
秋生(あきお)「ああ…」
秋生(あきお)「だがな…早苗(さなえ)よ…」
早苗(さなえ)「はい、なんでしょう」
秋生(あきお)「ハーレム状態(じょうたい)じゃなくなるのは、切(せつ)ないものなんだぞぅ!」
私欲(しよく)丸出(まるだ)しだった!
早苗(さなえ)「岡崎(おかざき)さん、秋生(あきお)さんは、ほっといてくださいねっ」
朋也(ともや)「はい」
秋生(あきお)「ちったぁ、遠慮(えんりょ)しろよ、てめぇーっ!」
早苗(さなえ)「はいはいっ、お仕事(しごと)しましょうね」
その背(せ)を押(お)して、奥(おく)へと入(はい)っていく。
声(こえ)「アレ切(き)つちまうぞ、オラァーーッ!」
朝(あさ)から恐(おそ)ろしいパン屋(や)だった。
朋也(ともや)「あ、あの、早苗(さなえ)さんっ」
早苗(さなえ)さんだけを呼(よ)び止(と)める。
早苗(さなえ)「はい?」
朋也(ともや)「渚(なぎさ)って、何時(いつ)ぐらいに起(お)きるんですか?」
早苗(さなえ)「もう起(お)きてますよっ」
朋也(ともや)(オッサン…!)
早苗(さなえ)「さっき、頑張(がんば)って歯(は)を磨(みが)いてましたよ」
早苗(さなえ)「岡崎(おかざき)さんと会(あ)うためにです」
朋也(ともや)「そうっすか…」
早苗(さなえ)「呼(よ)んだら来(く)ると思(おも)いますよ」
朋也(ともや)「ありがとうございます」
奥(おく)に消(き)えていった。
俺(おれ)はすぅ、と息(いき)を吸(す)い…
朋也(ともや)「渚(なぎさ)ーっ」
その名(な)を呼(よ)んでみた。
朋也(ともや)(俺(おれ)、子供(こども)みたい…)
少(すこ)し待(ま)つと…廊下(ろうか)を、たったと走(はし)る音(おと)。
渚(なぎさ)「お待(ま)たせしましたっ」
笑顔(えがお)の渚(なぎさ)が土間(どま)に下(くだ)りてくる。
渚(なぎさ)「朋也(ともや)くん、おはようございますっ」
朋也(ともや)「ああ、おはよ」
朋也(ともや)「ええと…今日(きょう)からお世話(せわ)になります」
俺(おれ)はわざとらしく言(い)って頭(あたま)を下(さ)げた。
渚(なぎさ)「はいっ、こちらこそよろしくお願(ねが)いしますっ…えへへ」
渚(なぎさ)も笑(わら)って、同(おな)じようにした。
渚(なぎさ)「では、とりあえず、部屋(へや)のほうに案内(あんない)します」
朋也(ともや)「ああ、頼(たの)むよ」
渚(なぎさ)の後(あと)に続(つづ)く。
渚(なぎさ)と同(おな)じ家(いえ)で暮(く)らすこと。
それは、こんなにも俺(おれ)の足(あし)を軽(かる)くするのか。
自分(じぶん)でも驚(おどろ)きだった。
渚(なぎさ)「ここです」
渚(なぎさ)に続(つづ)いて、入室(にゅうしつ)する。
ぷんと畳(たたみ)の匂(にお)いがした。
朋也(ともや)「いい部屋(へや)だな…」
渚(なぎさ)「普段(ふだん)は、客間(きゃくま)です」
朋也(ともや)「みたいだな」
部屋(へや)の隅(すみ)には座布団(ざぶとん)が積(つ)まれていた。
渚(なぎさ)「お布団(ふとん)、ここです」
渚(なぎさ)が押(お)し入(い)れを開(ひら)いてみせる。
渚(なぎさ)「朋也(ともや)くん、苦手(にがて)だったら、わたしが敷(し)いたり畳(たた)んだりします」
朋也(ともや)「そんなの自分(じぶん)でできるって」
渚(なぎさ)「万年床(まんねんどこ)にしたら、ダメです」
朋也(ともや)「わかってるよ」
朋也(ともや)「おまえ、案外(あんがい)、世話焼(せわや)きなのな」
渚(なぎさ)「え?」
渚(なぎさ)「いえ…そんなことないです。自分(じぶん)のことで、精一杯(せいいっぱい)なので…」
朋也(ともや)「おまえ、いっつも、他人(たにん)のことばっか心配(しんぱい)してるじゃないか」
渚(なぎさ)「そうでしょうか…」
朋也(ともや)「じゃなかったら、俺(おれ)はここに居(い)ないよ」
渚(なぎさ)「ああ、でも、それは…」
渚(なぎさ)「朋也(ともや)くんと一緒(いっしょ)に居(い)たいという願望(がんぼう)も、ちょっと入は(い)っちゃってました…」
その言葉(ことば)に俺(おれ)の胸(むね)が高鳴(たかな)る。
朋也(ともや)「…渚(なぎさ)」
渚(なぎさ)「はい…」
俺(おれ)は渚(なぎさ)の肩(かた)に手(て)を置(お)いて、顔(かお)を寄(よ)せる。
歯磨(はみが)き粉(こ)のいい匂(にお)いがした。
渚(なぎさ)「あさ…」
その小(ちい)さな口(くち)が開(ひら)いた。
朋也(ともや)「あさ?」
渚(なぎさ)「朝(あさ)…ご飯(めし)の用意(ようい)、手伝(てつだ)わないといけないです」
朋也(ともや)「………」
朋也(ともや)「あ、ああ…手伝(てつだ)ってきてくれ」
渚(なぎさ)「はい、それでは、できましたらお呼(よ)びしますので、待(ま)っててください」
渚(なぎさ)が部屋(へや)を出(で)ていった。
…ひとり残(のこ)される俺(おれ)。
朋也(ともや)(相変(あいか)わらずだな、あいつ…)
でも、この家(いえ)で暮(く)らしていれば、ふたりきりになることも多(おお)いはずだった。
朋也(ともや)(って、浅(あさ)ましいよな、俺(おれ)…)
朋也(ともや)(なんのために、ここに来(き)たってんだよ…)
スポーツバッグを投(な)げ出(だ)し、座(すわ)り込(こ)む。
渚(なぎさ)「それでは、いってきます」
早苗(さなえ)「はい、いってらっしゃいっ」
朋也(ともや)「………」
渚(なぎさ)「朋也(ともや)くんも、言(い)わないとダメです」
朋也(ともや)「…え?
俺(おれ)?」
渚(なぎさ)「はい」
早苗(さなえ)「………」
早苗(さなえ)さんが、笑顔(えがお)で俺(おれ)の言葉(ことば)を待(ま)ってくれていた。
朋也(ともや)「ええと…いってきます」
そんな言葉(ことば)を口(くち)にするのは、何年(なんねん)ぶりだろうか…。
早苗(さなえ)「いってらっしゃいっ」
ひどく、照(て)れくさかった。
外(そと)に出(で)ると、オッサンが、ホースを使(つか)って地面(じめん)に水(みず)を撒(ま)いていた。
渚(なぎさ)「いってきます」
秋生(あきお)「おぅ、気(き)ぃつけてなっ」
この人(ひと)にも、言(い)わなければならないのだろうか…。
朋也(ともや)「………」
渚(なぎさ)「朋也(ともや)くん、言(い)ってくれないと、出(で)かけられないです」
朋也(ともや)「わかったよ…」
朋也(ともや)「いってくるなっ」
秋生(あきお)「おぅ、いって、かましてこいっ」
…何(なに)をだ。
でも、屈託(くったく)なく送(おく)り出(だ)してくれたのは意外(いがい)だった。
つまり、照(て)れくさいと思(おも)っていたのは、俺(おれ)ひとりで…
俺(おれ)が思(おも)っていた以上(いじょう)に、それは、自然(しぜん)なことなのかもしれなかった。
渚(なぎさ)「一緒(いっしょ)に登校(とうこう)するのって、とても楽(たの)しいです」
朋也(ともや)「俺(おれ)は恥(は)ずかしいよ」
渚(なぎさ)「女(おんな)の子(こ)と歩(ある)いてるからですか?」
朋也(ともや)「ああ」
朋也(ともや)「でも、まぁ、今更(いまさら)か…」
今日(きょう)までだって、存分(ぞんぶん)歩(ある)いてきたし、いろんな生徒(せいと)に目撃(もくげき)されているはずだ。
はみ出(だ)しものの二人組(ふたりくみ)とか思(おも)われてるのだろうか。
渚(なぎさ)がもし、周(まわ)りからちょっとでも可愛(かわい)いとか思(おも)われてたら、優越感(ゆうえつかん)にも浸(ひた)れるんだろうけど…。
朋也(ともや)(どうなんだろう…)
渚(なぎさ)「あの、お父(とう)さんは、何(なに)か言(い)ってましたかっ」
朋也(ともや)「え?」
不意打(ふいう)ちのように、その存在(そんざい)を出(だ)されて、俺(おれ)は戸惑(とまど)ってしまう。
渚(なぎさ)「朋也(ともや)くんのお父(とう)さんです」
朋也(ともや)「あ、ああ…」
朋也(ともや)「寂(さび)しくなるってさ…」
渚(なぎさ)「え…」
朋也(ともや)「息子(むすこ)としてじゃない…」
朋也(ともや)「単(たん)なる話(はな)し相手(あいて)としてだよ…」
朋也(ともや)「って、こんな話(はなし)、朝(あさ)っぱらからしたくねぇんだけど…」
渚(なぎさ)「あ…ごめんなさいでした」
朋也(ともや)「いや…」
渚(なぎさ)「そうです、楽(たの)しい話(はなし)にしましょう」
朋也(ともや)「ああ…」
矛盾(むじゅん)した話(はなし)だけど…
渚(なぎさ)が隣(となり)に居(い)たことで救(すく)われる。
その話(はなし)を振(ふ)ってきたのは渚(なぎさ)自身(じしん)なんだけど…。
渚(なぎさ)「それでは、またお昼(ひる)に」
朋也(ともや)「ああ」
授業中(じゅぎょうちゅう)は怠惰(たいだ)な時間(じかん)。
もう俺(おれ)にとっては、意味(いみ)のない時間(じかん)だった。
昼休(ひるやす)みが待(ま)ち遠(どお)しかった。
その昼休(ひるやす)み。
ご飯(はん)を食(た)べ終(お)えると、すぐさま渚(なぎさ)は立(た)ち上(あ)がる。
渚(なぎさ)「演劇(えんげき)の練習(れんしゅう)します。見(み)ててくれますかっ」
朋也(ともや)「あ、ああ…」
朋也(ともや)(そっか…ふたりでぼーっとしてるわけにもいかないんだな…)
渚(なぎさ)「今(いま)の、どうでしたか?」
朋也(ともや)「…いや、そう訊(き)かれても、俺(おれ)、ぜんぜんわかんないんだけど」
渚(なぎさ)「そうですか…」
朋也(ともや)「でも、まぁ、演劇部(えんげきぶ)の部員(ぶいん)らしくはなってきてると思(おも)う」
渚(なぎさ)「本当(ほんとう)ですかっ」
朋也(ともや)「ああ、以前(いぜん)はあがり症(しょう)の人(ひと)が脅迫(きょうはく)されて演説(えんぜつ)させられてるみたいだったもんな」
渚(なぎさ)「進歩(しんぽ)してますかっ」
朋也(ともや)「ああ、ちょっとずつな」
渚(なぎさ)「よかったです、えへへっ」
昼休(ひるやす)みが終(お)われば、また怠惰(たいだ)な時間(じかん)が始(はじ)まる。
隣(となり)では、遅刻(ちこく)してきた春原(すのはら)が、眠(ねむ)りこけていた。
俺(おれ)は退屈(たいくつ)になって、窓(まど)の外(そと)を見(み)る。
桜(さくら)も散(ち)って、緑一色(みどりいっしょく)となった前庭(ぜんてい)が見渡(みわた)せた。
今(いま)は人影(ひとかげ)もなく静(しず)まり返(かえ)っていたが、創立者祭(そうりつしゃさい)には、賑(にぎ)わうことになるのだろう。
そして、創立者祭(そうりつしゃさい)さえ終(お)われば…
渚(なぎさ)を外(そと)に連(つ)れ出(だ)して、遊(あそ)べる日(ひ)も来(く)る。
そんな日(ひ)を思(おも)い描(えが)いて、暇(ひま)を潰(つぶ)した。
渚(なぎさ)「ただいま、帰(かえ)りました」
朋也(ともや)「ただいまっす」
ふたりして、古河(ふるかわ)パンの敷居(しきい)を跨(また)ぐ。
早苗(さなえ)「おかえりなさい、渚(なぎさ)」
早苗(さなえ)「岡崎(おかざき)さんも」
早苗(さなえ)さんは俺(おれ)にも微笑(ほほえ)んでくれる。
…やっぱりまだ恥(は)ずかしい。
俺(おれ)には、母親(ははおや)の記憶(きおく)がほとんどなかったから、もっと素直(すなお)に感動(かんどう)すべきだったのかもしれなかったけど…。
渚(なぎさ)と別(わか)れて、自分(じぶん)の部屋(へや)に向(む)かう。
朋也(ともや)(早苗(さなえ)さんって母親(ははおや)っぽくないからなぁ…)
朋也(ともや)(それに誰(だれ)がなんと言(い)おうが、可愛(かわい)いし)
朋也(ともや)(俺(おれ)、早苗(さなえ)さんのことが好(す)きなのかな…)
好き
好(す)きだ。
ああ、好(す)きだとも。
俺(おれ)は開(ひら)き直(なお)ることにした。
この感情(かんじょう)は、後(うし)ろめたいものでもなんでもない。
朋也(ともや)(健全(けんぜん)な気持(きも)ちでじゃなくなったら、さすがにまずいけどな…)
朋也(ともや)「ふぅ…」
馬鹿(ばか)げたことを考(かんが)えながら、自室(じしつ)の戸(と)を開(ひら)く。
朋也(ともや)「………」
目(め)が点(てん)になった。
その場所(ばしょ)を小学校(しょうがっこう)低学年(ていがくねん)ぐらいのガキ共(とも)が占拠(せんきょ)していたからだ。
朋也(ともや)「なんなんだよ、てめぇら…」
男(おとこ)の子(こ)「あれ?
先生(せんせい)じゃない」
朋也(ともや)「先生(せんせい)?
なに寝惚(ねぼ)けたこと抜(ぬ)かしてるんだよ…」
朋也(ともや)「ここは俺(おれ)の部屋(へや)だっ」
ガキのひとりが、俺(おれ)のバッグの中身(なかみ)を床(ゆか)にぶちまけていた。
朋也(ともや)「こらっ、それ俺(おれ)のだっ!」
その子(こ)に迫(せま)る。すると…
男(おとこ)の子(こ)「なっちゃんが、ぴーんち!」
どすっ!
朋也(ともや)「ぐあっ…」
背中(せなか)を蹴(け)られた。
男(おとこ)の子(こ)「なっちゃん、大丈夫(だいじょうぶ)?
怪我(けが)はなかった?」
女(おんな)の子(こ)「うん」
男(おとこ)の子(こ)「なっちゃんは、いつだって無謀(むぼう)すぎるよっ」
女(おんな)の子(こ)「ごめんね」
男(おとこ)の子(こ)「だから、いつもボクがそばにいたいんだ…」
女(おんな)の子(こ)「えっ…」
男(おとこ)の子(こ)「いてもいいかな」
女(おんな)の子(こ)「う、うん…」
朋也(ともや)「こらっ、人(ひと)を悪人(あくにん)に仕立(した)てて、勝手(かって)に告白(こくはく)し始(はじ)めるな!」
背後(はいご)で、どっと笑(わら)い声(こえ)が巻(ま)き起(お)こった。振(ふ)り返(かえ)ると、ガキ共(とも)が積(つ)まれた座布団(ざぶとん)の上(うえ)に座(すわ)っていた。
声(こえ)「それでは次(つぎ)のお題(だい)に参(まい)ります!」
朋也(ともや)「そっちは、勝手(かって)に大喜利(おおぎり)を始(はじ)めてるんじゃないっ!」
もう、むちゃくちゃだった。
朋也(ともや)「どうすりゃいいんだぁ…」
俺(おれ)ひとりが怒鳴(どな)ったところで収拾(しゅうしゅう)がつくはずもなく、呆然(ぼうぜん)と立(た)ち尽(つ)くすしかなかった。
ぱんぱん!
突然(とつぜん)、手(て)を打(う)つ音(おと)が鳴(な)り響(ひび)いた。
早苗(さなえ)「はい、みなさん始(はじ)めますよー」
早苗(さなえ)さんだった。
その一声(ひとこえ)だけで、場(ば)は静(しず)まった。
ガキ共(とも)はいそいそと片(かた)づけを始(はじ)め、そしてテーブルの周(まわ)りに集(あつ)まって座(すわ)った。
皆(みな)、一言(いちげん)も喋(しゃべ)らない。
異様(いよう)な目(め)で、俺(おれ)はその光景(こうけい)を見(み)ていた。
早苗(さなえ)「あら、歌丸(うたまる)さん」
朋也(ともや)「岡崎(おかざき)っす」
早苗(さなえ)「ああ、岡崎(おかざき)さん。どうしました?」
朋也(ともや)「いや、ここ、俺(おれ)の部屋(へや)だと思(おも)ったんだけど」
早苗(さなえ)「そうです。岡崎(おかざき)さんの部屋(へや)です」
早苗(さなえ)「そして、古河塾(ふるかわじゅく)の教室(きょうしつ)でもあります」
朋也(ともや)「塾(じゅく)?
教室(きょうしつ)?」
早苗(さなえ)「はい。うちはパン屋(や)と、学習塾(がくしゅうじゅく)をしてるんです」
朋也(ともや)「知(し)らなかった…」
早苗(さなえ)「はい。これからは覚(おぼ)えておいてくださいね」
朋也(ともや)「忘(わす)れるわけない…」
早苗(さなえ)「でも、気兼(きが)ねしなくていいですからね。くつろいでもらっていて結構(けっこう)です」
朋也(ともや)「どこで」
早苗(さなえ)「ここで、です。端(はし)っこのほうで」
朋也(ともや)「…結構(けっこう)です」
早苗(さなえ)「そうですか?」
子供(こども)「先生(せんせい)、そんな奴(やつ)の相手(あいて)をしてないで、早(はや)く始(はじ)めてください」
朋也(ともや)「おまえっ、今(いま)まで女(おんな)の子(こ)を口説(くど)いていた奴(やつ)の言(い)うセリフか、それがっ!」
子供(こども)「教室(きょうしつ)ではうるさくしないでください」
朋也(ともや)「おまえは、さっきまでここで大喜(おおよろこ)利(と)してたじゃないかっ!」
頭痛(ずつう)がしてきた。俺(おれ)は思(おも)わず、こめかみを押(お)さえる。
早苗(さなえ)「大丈夫(だいじょうぶ)ですか?」
朋也(ともや)「早苗(さなえ)さん、先生(せんせい)なんですか」
早苗(さなえ)「はい」
朋也(ともや)「俺(おれ)の私物(しぶつ)にだけは手(て)を出(だ)さないように言(い)っておいてほしいんすけど」
早苗(さなえ)「はい。わかりました」
朋也(ともや)「それじゃ、終(お)わるまで出(で)てます」
早苗(さなえ)「申(もう)し訳(わけ)ありません」
早苗(さなえ)「二時間(にじかん)ほどで終(お)わりますので」
俺(おれ)は自分(じぶん)の部屋(へや)を後(あと)にする。
朋也(ともや)(早苗(さなえ)さん、勉強(べんきょう)教(おし)えてるのか…)
朋也(ともや)(確(たし)かに、あの不気味(ぶきみ)なパン屋(や)だけで食(く)っていけるわけないもんな…)
朋也(ともや)(しかし、あの早苗(さなえ)さんだぞ…)
朋也(ともや)(大丈夫(だいじょうぶ)なんだろうか…)
パン屋(や)同様(どうよう)、恐(おそ)ろしい光景(こうけい)が脳裏(のうり)に浮(う)かぶ。
秋生(あきお)「なんだ、てめぇ、暇(ひま)そうにほっつき歩(ある)きやがって」
オッサンと廊下(ろうか)で鉢合(はちあ)わせになる。
秋生(あきお)「暇(ひま)だったら、少(すこ)しは店(みせ)を手伝(てつだ)え」
秋生(あきお)「つーか、むしろ、おまえが店番(みせばん)をして、俺(おれ)を暇(ひま)にしろ」
相変(あいか)わらず言(い)うことがむちゃくちゃだ。
秋生(あきお)「あ、おまえ、客(きゃく)なんてどうせこねぇって思(おも)っただろ?」
秋生(あきお)「まともなパンは結構(けっこう)売(う)れるんだぜ?」
秋生(あきお)「今週(こんしゅう)の新商品(しんしょうひん)、というのが売(う)れないだけだ」
秋生(あきお)「俺(おれ)の焼(や)くパンはそれなりにうまいからな」
朋也(ともや)「早苗(さなえ)さん…」
秋生(あきお)「うおーーーーっ!
今晩(こんばん)も、早苗(さなえ)のパンだ、イヤッホーーーーーーゥ!!」
朋也(ともや)「違(ちが)う。早苗(さなえ)さん、先生(せんせい)してるんだろ。大丈夫(だいじょうぶ)なのか?」
秋生(あきお)「あ、ああ、学習塾(がくしゅうじゅく)のほうか」
秋生(あきお)「心配(しんぱい)すんな。早苗(さなえ)はあっちが本業(ほんぎょう)だ」
そうだったのか。
秋生(あきお)「学校(がっこう)の教師(きょうし)をしてたこともある」
秋生(あきお)「パン作(づく)りのほうはあれだが、勉強(べんきょう)を教(おし)えるのはうまい」
朋也(ともや)「早苗(さなえ)さん…」
秋生(あきお)「今月(こんげつ)はずっと早苗(さなえ)のパンでいいぜーーーーーーーーーーーーーっ!!」
秋生(あきお)「ぐあ…」
自分(じぶん)の首(くび)を締(し)めていく。面白(おもしろ)い人(ひと)だった。
秋生(あきお)「すまん、小僧(こぞう)…食(く)うの、手伝(てつだ)ってくれ…」
朋也(ともや)「嫌(いや)です」
秋生(あきお)「のおおぉぉぉーーーーっ!」
床(ゆか)を転(ころ)げ回(まわ)る。
声(こえ)「すみませーん」
遠(とお)くから声(ごえ)がした。
秋生(あきお)「きたぁーーっ、客(きゃく)だっ!」
目(め)を剥(む)いて、起(お)き上(あ)がる。
秋生(あきお)「よし、何(なに)を買(か)っても、おまけで早苗(さなえ)のパンをトレイごと付(つ)けてやろう」
秋生(あきお)「悶絶(もんぜつ)大(だい)サービスだぜ」
鼻息(はないき)を荒(あら)げて、オッサンは歩(ある)いていった。
朋也(ともや)「………」
朋也(ともや)(大体(だいたい)はわかっていたけど…)
朋也(ともや)(退屈(たいくつ)しない家族(かぞく)だなぁ…)
夕飯(ゆうはん)の後(あと)、渚(なぎさ)が見(み)えないと思(おも)ったら、外(そと)にいた。
昼間(ひるま)は子供(こども)で賑(にぎ)わう公園(こうえん)。
今(いま)は、閑散(かんさん)としていた。
その中心(ちゅうしん)で、渚(なぎさ)は、演劇(えんげき)の練習(れんしゅう)をしていた。
朋也(ともや)「おまえ、毎晩(まいばん)、こんなところで練習(れんしゅう)してんのか?」
渚(なぎさ)「いえ、毎日(まいにち)ではないです。でも、毎日(まいにち)のようにがんばりたいです」
朋也(ともや)「おまえな、ちょっとは気(き)をつけろよ。こんな暗(くら)い場所(ばしょ)で、ひとりでさ」
渚(なぎさ)「大丈夫(だいじょうぶ)です。家(いえ)の前(まえ)です。呼(よ)んだら、すぐお父(とう)さん、きてくれます」
朋也(ともや)「そうかもしれないけど、おまえとろそうだから、うまくつけ込(こ)まれないかと心配(しんぱい)だぞ、俺(おれ)は」
渚(なぎさ)「えっ」
渚(なぎさ)が俺(おれ)の顔(かお)を見(み)る。
渚(なぎさ)「わたし…とろそうに見(み)えますか?」
朋也(ともや)「なにっ」
今度(こんど)は俺(おれ)が渚(なぎさ)の顔(かお)を見返(みかえ)す。
朋也(ともや)「おまえ…とろそうに見(み)えるっていう自覚(じかく)がなかったのか?」
渚(なぎさ)「そんなの、ないです」
朋也(ともや)「それは驚(おどろ)くぞ、俺(おれ)は」
渚(なぎさ)「わたしは…落(お)ち込(こ)みます」
俯(うつむ)いてしまう渚(なぎさ)。
朋也(ともや)「はぁ…」
朋也(ともや)「おまえさっ…そう簡単(かんたん)に落(お)ち込(こ)まねぇのっ」
渚(なぎさ)「えへ、冗談(じょうだん)です」
渚(なぎさ)「わたし、慣(な)れっこです。朋也(ともや)くんの意地悪(いじわる)」
朋也(ともや)「…んなもんに慣(な)れなくてもいいけどさ」
朋也(ともや)「悪(わる)いな、俺(おれ)、口悪(くちわる)いから」
渚(なぎさ)「いえ、朋也(ともや)くんも、朋也(ともや)くんのままでいてください」
変(か)わらないでほしい。
変(か)わってしまったからこそ、渚(なぎさ)は学校(がっこう)でひとりになってしまったんだから。
それを切(せち)に祈(いの)っているようだった。
朋也(ともや)「ああ、わかったよ」
俺(おれ)たちは、鉄棒(てつぼう)にもたれるようにして並(なら)んで立(た)つ。
見晴(みは)らしがいい。星空(ほしぞら)が綺麗(きれい)だった。
朋也(ともや)「で、演劇(えんげき)の題目(だいもく)とか、決(き)まってんの」
渚(なぎさ)「題目(だいもく)、と言(い)いますと?」
朋也(ともや)「つまり、なんだ…要(よう)はどういうお話(はなし)をやるか、ってことだ」
渚(なぎさ)「お話(はなし)、ですか?」
朋也(ともや)「ああ」
渚(なぎさ)「決(き)めてません」
朋也(ともや)「なら、とっとと決(き)めろ」
渚(なぎさ)「どうやって決(き)めればいいんでしょうか」
朋也(ともや)「………」
朋也(ともや)「おまえさ…演劇(えんげき)って、未経験者(みけいけんしゃ)だっけ」
渚(なぎさ)「そうです」
渚(なぎさ)「しかも、そういった行事(ぎょうじ)はことごとく欠席(けっせき)してます」
渚(なぎさ)「幼稚園(ようちえん)の学芸会(がくげいかい)でさえ、参加(さんか)してません」
…そのへんを歩(ある)いている、まったく演劇(えんげき)に興味(きょうみ)のない一般人(いっぱんじん)のほうが、よっぽど向(む)いていると思(おも)えるのは気(き)のせいだろうか?
朋也(ともや)「…気(き)のせいだ…気(き)のせいだ…気(き)のせいだ…気(き)のせいだ」
渚(なぎさ)「なにを呟(つぶや)いてるんです?」
朋也(ともや)「いや、成功祈願(せいこうきがん)のおまじないだ」
渚(なぎさ)「早(はや)すぎると思(おも)います」
朋也(ともや)「そうだな…」
朋也(ともや)「とにかく題目(だいもく)を決(き)めなくちゃな。練習(れんしゅう)のしようもないだろ」
渚(なぎさ)「そうですね…」
しばらく考(かんが)え込(こ)む。
渚(なぎさ)「ひとつだけ、やりたいお話(はなし)があります」
朋也(ともや)「おっ、そうか。それはなんだ」
渚(なぎさ)「わたしが小(ちい)さい時(とき)に聞(き)かされたお話(はなし)です」
オッサンか早苗(さなえ)さんが聞(き)かせていた話(はなし)なんだろう。
朋也(ともや)「タイトルは」
渚(なぎさ)「題(だい)はわからないです」
朋也(ともや)「どんな話(はなし)だった」
昔話(むかしばなし)の類(たぐい)なら、きっと聞(き)けば思(おも)い当(あ)たるだろう。
渚(なぎさ)「世界(せかい)にたったひとり残(のこ)された女(おんな)の子(こ)のお話(はなし)です」
朋也(ともや)「え…」
渚(なぎさ)「それはとてもとても悲(かな)しい…」
渚(なぎさ)「冬(ふゆ)の日(ひ)の、幻想物語(げんそうものがたり)なんです」
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seagull 最后编辑于 2009-08-03 14:22:15
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幻想世界
VIII
…できたっ。
彼女(かのじょ)は言(い)って、地面(じめん)に寝転(ねころ)がった。
それが僕(ぼく)には、なんなのかよくわからなかった。
彼女(かのじょ)が体(からだ)を起(お)こす。
…なにかわかる?
首(くび)を横(よこ)に振(ふ)った。
…ぴょんぴょんと跳(は)ね上(あ)がる道具(どうぐ)。
僕(ぼく)は首(くび)を傾(かし)げたままでいた。
…いいから、そっちにのって。
どこにのれるのかも、よくわからない。
そもそも、それ自体(じたい)が傾(かたむ)いているのだから。
突(つ)っ立(た)っていると、彼女(かのじょ)は僕(ぼく)の体(からだ)を持(も)ち上(あ)げて、そして、その傾斜(けいしゃ)した板(いた)の上(うえ)に置(お)いた。
…ここ持(も)ってないと、本当(ほんとう)に、飛(と)んでいっちゃうからね。
目(め)の前(まえ)の取(と)っ手(て)を握(にぎ)らされる。
…よし。
彼女(かのじょ)は、反対側(はんたいがわ)に回(まわ)って、同(おな)じように腰(こし)を下(お)ろした。
すると、僕(ぼく)の体(からだ)が浮(う)き上(あ)がった。
彼女(かのじょ)のほうが低(ひく)い位置(いち)にいた。
彼女(かのじょ)が足(あし)を伸(の)ばす。
すると、高(たか)さが逆転(ぎゃくてん)した。
彼女(かのじょ)はそれを繰(く)り返(かえ)した。
景色(けしき)が浮(う)いたり沈(しず)んだり。
彼女(かのじょ)が揺(ゆ)れる髪(かみ)の中(なか)で笑(わら)う。
…楽(たの)しいねっ。
僕(ぼく)は頷(うなず)いた。
なにより彼女(かのじょ)とこんな楽(たの)しいものが作(つく)れたことがうれしかった。
恐(こわ)いこともあったけど、本当(ほんとう)にこうしてよかった。
…また別(べつ)のものを作(つく)り始(はじ)めてもいい?
彼女(かのじょ)はそう提案(ていあん)した。
…また、手伝(てつだ)ってくれるよね。
もちろん。
僕(ぼく)たちは、そうしてガラクタを集(あつ)めては、遊(あそ)び道具(どうぐ)を作(つく)っていった。
気(き)づくと、僕(ぼく)たちの家(いえ)の前(まえ)は、とても立派(りっぱ)な遊(あそ)び場(ば)になっていた。
最後(さいご)に高(たか)くまで上(のぼ)れる見晴台(みはらしだい)のようなものを作(つく)った。
彼女(かのじょ)の足(あし)の上(うえ)に座(すわ)って、一緒(いっしょ)に地面(じめん)を見下(みお)ろした。
ふたりだけの遊(あそ)び場(ば)。
それがすごく、寂(さび)れた風景(ふうけい)に見(み)えた。
同時(どうじ)に、僕(ぼく)はどうして記憶(きおく)の中(なか)の世界(せかい)が温(あたた)かかったかを思(おも)い出(だ)していた。
人(ひと)がたくさんいたんだ。
僕(ぼく)は彼女(かのじょ)を見上(みあ)げる。
…ん?
不思議(ふしぎ)そうな顔(かお)で僕(ぼく)を見下(みお)ろした。
彼女(かのじょ)はすべてを知(し)っているのだろうか。
すべてを受(う)け入(い)れて、ここにいるのだろうか。
それは、彼女(かのじょ)じゃないといけなかったのだろうか。
それとも、たまたま彼女(かのじょ)だったのだろうか。
どっちにしても、こんな悲(かな)しいことはない。
こんな世界(せかい)を愛(あい)せるはずがない。
僕(ぼく)がいなかったら、彼女(かのじょ)は、本当(ほんとう)に孤独(こどく)だ。
僕(ぼく)が生(う)まれるまでの間(あいだ)、ずっと彼女(かのじょ)はひとりだった。
それはどんな暮(く)らしだったのだろう。
どんな毎日(まいにち)だったのだろう。
こんなもの悲(かな)しい世界(せかい)で…
彼女(かのじょ)は何(なに)を思(おも)ってきたのだろうか。
…どうしたの?
彼女(かのじょ)が訊(き)いていた。
…泣(な)きたい?
僕(ぼく)は頷(うなず)いた。
…悲(かな)しいことを思(おも)い出(だ)した?
そうじゃない。
悲(かな)しいのは、すべてだ。
何(なに)もかもが悲(かな)しいんだ。
心(こころ)を持(も)った誰(だれ)かが、存在(そんざい)してはいけなかったんだ。
間違(まちが)ってる。
誰(だれ)にも知(し)られず、忘(わす)れ去(さ)られているべき場所(ばしょ)だったんだ。
僕(ぼく)は世界(せかい)の果(は)てを見渡(みわた)した。
世界(せかい)の終(お)わりを。
世界(せかい)の終(お)わりは、悲(かな)しい色(いろ)に満(み)ちていた。
そして、僕(ぼく)という存在(そんざい)は、ここで終(お)わるのだ。
永遠(えいえん)にここで終(お)わり続(つづ)けるのだ。
彼女(かのじょ)もずっと前(まえ)から気(き)づいていたのだろう。
…こんな場所(ばしょ)に生(う)まれること…
…きみはそれを望(のぞ)んだ?
だから、僕(ぼく)が初(はじ)めて外(そと)の風景(ふうけい)を見(み)た時(とき)も、彼女(かのじょ)はそう訊(き)いたんだ。
ただ、空(そら)だけは、どこまでも続(つづ)いていた。
その先(さき)にだけは、もしかしたら、終(お)わりがあるかもしれないと…そう思(おも)わせた。
あるいは、そこがいつの日(ひ)か僕(ぼく)の居(い)た世界(せかい)なのかもしれない。
…涙(なみだ)が流(なが)せたらいいのにね。
僕(ぼく)は彼女(かのじょ)の腕(うで)に包(つつ)まれながら、空(そら)をずっと眺(なが)めていた。
もし、この空(そら)が、どこか別(べつ)の世界(せかい)に繋(つな)がっているのなら…
そこへ彼女(かのじょ)を連(つ)れていきたかった。
でも、どうやって…?
僕(ぼく)はその方法(ほうほう)を心(こころ)の中(なか)に思(おも)い描(えが)いてみた。
けど…なにひとつ思(おも)い浮(う)かばなかった。
いつしか、風(かぜ)の匂(にお)いが変(か)わっていた。
それは、僕(ぼく)がこの世界(せかい)に生(う)まれてから、初(はじ)めてのことだった。
僕(ぼく)を抱(だ)く腕(うで)の力(ちから)が一層(いっそう)、強(つよ)くなった。
彼女(かのじょ)も気(き)づいていたのだ。
…こんな世界(せかい)にも…冬(ふゆ)がくるんだ。
同(おな)じ場所(ばしょ)を見(み)つめたまま、そう言(い)った。
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seagull 最后编辑于 2009-08-03 14:23:04
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5月3日
(
土
)
ずっと引(ひ)っかかっていた。
渚(なぎさ)から劇(げき)の話(はなし)を聞(き)いてから。
──世界(せかい)にたったひとり残(のこ)された女(おんな)の子(こ)の話(はなし)です。
同(おな)じような情景(じょうけい)を見(み)た気(き)がする。
それはいつのことだろう。
そして、それは、なんだったのだろう。
夢(ゆめ)なのか、あるいは、そこに俺自身(おれじしん)がいたのか。
なにひとつ思(おも)い出(だ)せない。
けど、渚(なぎさ)の話(はなし)に同(おな)じ手触(てざわ)りを感(かん)じた。
かつて見(み)た風景(ふうけい)と同(おな)じ感触(かんしょく)だった。
部屋(へや)を出(で)る。
早苗(さなえ)「わたしは古河(ふるかわ)パンのお荷物(にもつ)なんですねーっ!」
泣(な)きながら早苗(さなえ)さんが、目(め)の前(まえ)を走(はし)りすぎていった。
秋生(あきお)「俺(おれ)は大好(だいす)きだーーーーっ!」
その後(あと)をパンを口(くち)にくわえたオッサンが追(お)いかけていった。
見慣(みな)れた光景(こうけい)だが…。
訊(き)きたいことがあったので、俺(おれ)もその後(あと)を追(お)う。
秋生(あきお)「はぁ、はぁ…」
オッサンが、裏口(うらぐち)で立(た)ちつくしていた。
秋生(あきお)「しくったぜ…早苗(さなえ)のパンを枕代(まくらが)わりにして寝(ね)ていたところを見(み)つかっちまった」
秋生(あきお)「枕(まくら)としてはちょうどいいんだ、これが」
早苗(さなえ)さんはその裏口(うらぐち)から外(そと)に出(で)てしまったようだ。泣(な)きながら近所(きんじょ)を走(はし)り回(まわ)っているのだろう。
秋生(あきお)「おまえも使(つか)ってみるか」
朋也(ともや)「いや、いーです」
秋生(あきお)「そうかよ。ちっ、いつだって、俺(おれ)ひとりが悪者(わるもの)だぜ」
それだけのことをしていると思(おも)うが。
朋也(ともや)「オッサン、訊(き)きたいことがあるんだけど、いいか」
秋生(あきお)「おまえが俺(おれ)に命令(めいれい)して、早苗(さなえ)のパンを枕(まくら)にしたことにしてくれれば、なんだって教(おし)えてやろう」
朋也(ともや)「そんな嘘(うそ)を早苗(さなえ)さんが信(しん)じるわけないだろ」
秋生(あきお)「ふん、早苗(さなえ)の前(まえ)では偽善者(ぎぜんしゃ)を装(よそお)いやがって、この腹(はら)グロ野郎(やろう)が」
秋生(あきお)「早苗(さなえ)を泣(な)かしたら承知(しょうち)しねぇぞ」
朋也(ともや)「今(いま)、あんた泣(な)かしてたじゃないか」
秋生(あきお)「俺(おれ)はいいんだよ、馬鹿(ばか)」
秋生(あきお)「俺(おれ)以外(いがい)があいつを泣(な)かせたら、命(いのち)はねぇぞ、よく覚(おぼ)えておけ、この悪徳商人(あくとくしょうにん)がっ」
朋也(ともや)「そりゃ、あんただろ」
秋生(あきお)「なんだとぅ!?」
一向(いっこう)に話(はなし)が進(すす)まない。
朋也(ともや)「渚(なぎさ)に童話(どうわ)を聞(き)かせたか」
俺(おれ)はぶしつけに訊(き)いた。
秋生(あきお)「あん?
なんの話(はなし)だよ」
朋也(ともや)「小(ちい)さい頃(ころ)にだよ。渚(なぎさ)に童話(どうわ)を話(はな)して聞(き)かせたか?」
朋也(ともや)「童話(どうわ)じゃないかもしれない。世界(せかい)にひとり残(のこ)された女(おんな)の子(こ)の話(はなし)だ」
秋生(あきお)「なんだよ、そりゃ」
朋也(ともや)「思(おも)い出(だ)してくれ。結構(けっこう)大事(だいじ)なことなんだ」
俺(おれ)は真剣(しんけん)な目(め)で、オッサンを見(み)た。
それが伝(つた)わると、オッサンは目(め)を閉(と)じて、思(おも)い出(だ)そうと努(つと)めた。
秋生(あきお)「他(ほか)に、手(て)がかりは」
朋也(ともや)「冬(ふゆ)の物語(ものがたり)だ」
秋生(あきお)「冬(ふゆ)か…」
腕組(うでぐ)みをして考(かんが)える。
秋生(あきお)「………」
目(め)を開(あ)けた。
秋生(あきお)「わりぃが俺(おれ)に心当(こころあ)たりはねぇ」
朋也(ともや)「そうか…」
秋生(あきお)「早苗(さなえ)に訊(き)いてくれ」
朋也(ともや)「そうだな。そうするよ。時間(じかん)取(と)らせた」
秋生(あきお)「おい、小僧(こぞう)」
去(さ)ろうとした俺(おれ)を呼(よ)び止(と)めた。
朋也(ともや)「あん?」
秋生(あきお)「おまえが何(なに)を詮索(せんさく)しようとしているかはしらねぇ」
秋生(あきお)「けどな、もし、何(なに)かがわかっても渚(なぎさ)には言(い)うな。まず俺(おれ)に言(い)え」
秋生(あきお)「いいな」
珍(めずら)しく、真面目(まじめ)だった。
朋也(ともや)「ああ、わかったよ、オッサン」
早苗(さなえ)さんを探(さが)す。
とりあえず、庭掃除(にわそうじ)をしていた隣近所(となりきんじょ)の女性(じょせい)に訊(き)いてみることにする。
朋也(ともや)「早苗(さなえ)さん、裏口(うらぐち)から出(で)てきませんでしたか」
女性(じょせい)「ええ、いつものように泣(な)いて出(で)てきましたよ」
やはり、近所(きんじょ)では有名(ゆうめい)らしい…。
女性(じょせい)「放(ほう)っておけば、帰(かえ)ってきますよ」
笑(わら)いながら、それが微笑(ほほえ)ましい日常風景(にちじょうふうけい)であるかのように女性(じょせい)は続(つづ)けた。
朋也(ともや)「まあ、そうなんでしょうけど、用(よう)があるんです。どっちに行(い)きましたか」
女性(じょせい)「今朝(けさ)は、あっちでしたよ」
朋也(ともや)「どうも」
女性(じょせい)が指(さ)さしたほうに、俺(おれ)は歩(ある)き始(はじ)めた。
早苗(さなえ)さんがひとりでとぼとぼと歩(ある)いていた。
朋也(ともや)「早苗(さなえ)さん」
俺(おれ)は声(こえ)をかける。
早苗(さなえ)「え、はい」
振(ふ)り向(む)いて、目(め)をごしごしと擦(こす)る。
こうして見(み)ると、本当(ほんとう)に渚(なぎさ)にそっくりだ。
どきっとするほどに。
早苗(さなえ)「岡崎(おかざき)さん、こんなところまでどうしましたか」
朋也(ともや)「いや、別(べつ)に。散歩(さんぽ)してただけですよ。もう、戻(もど)るところ」
早苗(さなえ)「じゃ、一緒(いっしょ)に戻(もど)りましょう」
朋也(ともや)「はい」
ふたり並(なら)んで歩(ある)き始(はじ)める。
家(いえ)はそんなに遠(とお)くない。今(いま)すぐ訊(き)くべきだった。
朋也(ともや)「早苗(さなえ)さん、訊(き)きたいことがあるんです。いいですか」
早苗(さなえ)「はい、なんでしょう」
朋也(ともや)「昔(むかし)、小(ちい)さい渚(なぎさ)に童話(どうわ)を話(はな)して聞(き)かせたりしましたか」
朋也(ともや)「それは童話(どうわ)じゃないかもしれない。世界(せかい)にひとり残(のこ)された女(おんな)の子(こ)の話(はなし)です」
朋也(ともや)「冬(ふゆ)の話(はなし)です」
早苗(さなえ)「うーん…」
足(あし)を止(と)めて、真剣(しんけん)に考(かんが)え込(こ)む。
早苗(さなえ)「それは、絵本(えほん)を読(よ)んであげたりはしました」
早苗(さなえ)「でも、その中(なか)に、そんな話(はなし)があったかどうかはわかりません」
早苗(さなえ)「他(ほか)に手(て)がかりはないんですか?」
朋也(ともや)「ええ…」
早苗(さなえ)「結末(けつまつ)はどんなだったか、わからないですか?」
朋也(ともや)「ええ、それも」
いや…渚(なぎさ)はなんて言(い)っていただろうか。
──それはとてもとても悲(かな)しい、冬(ふゆ)の日(ひ)の幻想物語(げんそうものがたり)なんです。
とてもとても悲(かな)しい…
ハッピーエンドで終(お)わって、その話(はなし)の印象(いんしょう)が、とても悲(かな)しいものにはならないはずだった。
朋也(ともや)「…とても悲(かな)しい結末(けつまつ)です」
だから、俺(おれ)はそう言(い)っていた。
早苗(さなえ)「そう…」
早苗(さなえ)「なら、印象(いんしょう)に残(のこ)るはずですね」
朋也(ともや)「ええ」
早苗(さなえ)「でも、印象(いんしょう)にはありません。そもそもわたしは悲(かな)しいお話(はなし)が苦手(にがて)ですから…」
早苗(さなえ)「だから、そんな本(ほん)をあの子(こ)に読(よ)んであげることもなかったと思(おも)います」
朋也(ともや)「そうですか…」
手(て)がかりは途絶(とだ)えた。これで頼(たよ)りは渚(なぎさ)自身(じしん)の記憶(きおく)だけだ。
俺(おれ)たちは再(ふたた)び歩(ある)き始(はじ)める。
早苗(さなえ)「落(お)ち込(こ)んでますか」
朋也(ともや)「ええ、少(すこ)し」
早苗(さなえ)「大事(だいじ)なことなんですか?」
朋也(ともや)「そうですね。それなりに」
早苗(さなえ)「では、何(なに)か思(おも)い出(だ)せるように頑張(がんば)りますね」
朋也(ともや)「ええ、お願(ねが)いします」
気(き)づくと古河(ふるかわ)パンと書(か)かれた看板(かんばん)の前(まえ)に立(た)っていた。
早苗(さなえ)「岡崎(おかざき)さんは、渚(なぎさ)のことを好(す)いてくれてるんですよね」
朋也(ともや)「え、ええ…まぁ」
早苗(さなえ)「ずっと、好(す)きでいてあげてくださいね」
朋也(ともや)「はぁ」
間(ま)の抜(ぬ)けた返事(へんじ)しかできなかった。
秋生(あきお)「おぅ、おかえり」
看板(かんばん)の下(した)、ウンコ座(すわ)りで煙草(たばこ)をふかしていたオッサンが、片手(かたて)をあげていた。
朋也(ともや)「なぁ、思(おも)い出(だ)せないか」
渚(なぎさ)「とてもとても昔(むかし)の話(はなし)なんです」
渚(なぎさ)「それが絵本(えほん)なのか、人(にん)から聞(き)かされたのかも、思(おも)い出(だ)せないです」
朋也(ともや)「そっかよ…」
朋也(ともや)「話(はなし)の内容(ないよう)はどのくらい憶(おも)えてる」
渚(なぎさ)「それもほんの少(すこ)しです」
朋也(ともや)「いいよ、聞(き)かせてくれ」
渚(なぎさ)「はい」
渚(なぎさ)「その女(おんな)の子(こ)は世界(せかい)にひとりっきりだったんです」
渚(なぎさ)「とても寂(さび)しく、とても辛(つら)かったんです」
渚(なぎさ)「そこで、友達(ともだち)を作(つく)ることにしたんです」
渚(なぎさ)「それはガラクタを集(あつ)めて、組(く)み上(あ)げた、一体(いったい)の人形(にんぎょう)です」
渚(なぎさ)「人形(にんぎょう)は、女(おんな)の子(こ)の思(おも)いに応(こた)えて、動(うご)き始(はじ)めました」
渚(なぎさ)「こうして、女(おんな)の子(こ)は寂(さび)しくなくなりました」
渚(なぎさ)「以上(いじょう)です」
朋也(ともや)「それ、ハッピーエンドじゃねぇか」
朋也(ともや)「しかも、中途半端(ちゅうとはんぱ)だし、面白(おもしろ)くねぇ…」
渚(なぎさ)「違(ちが)います。まだ途中(とちゅう)なんです」
渚(なぎさ)「まだまだ続(つづ)きがあるんです」
渚(なぎさ)「とても感動(かんどう)できるお話(はなし)だったんです」
朋也(ともや)「本当(ほんとう)かよ…」
口(くち)では馬鹿(ばか)にしたが、俺(おれ)は動揺(どうよう)していた。
ガラクタの人形(にんぎょう)、という言葉(ことば)が強(つよ)いイメージで、心(こころ)に突(つ)き刺(さ)さっていた。
なんなんだろう、この感覚(かんかく)は。
どうしても、その話(はなし)の出所(しゅっしょ)を知(し)りたい。
渚(なぎさ)「でも思(おも)い出(だ)せるのはそこまでですから、劇(げき)でやるとしたら、今(いま)のところまでです」
朋也(ともや)「だから、面白(おもしろ)くねぇってば。聞(き)かない子(こ)だな、おまえは」
渚(なぎさ)「でも、今(いま)の話(はなし)なら、ひとりでできるんです」
朋也(ともや)「そうだな、世界(せかい)にはひとりきりなんだもんな」
朋也(ともや)「でも人形作(にんぎょうつく)って、ハイ、おしまい、だろ?」
朋也(ともや)「話(はなし)に起承転結(きしょうてんけつ)がないぞ。クライマックスがなければ、盛(も)り上(あ)がらない」
朋也(ともや)「盛(も)り上(あ)がらなければ、客(きゃく)は喜(よろこ)ばない」
朋也(ともや)「見(み)せることを目的(もくてき)とした演劇(えんげき)なんだから、最低(さいてい)だぞ、それって」
渚(なぎさ)「そうでしょうか…」
その落(お)ち込(こ)んだ声(こえ)で気(き)づく。いつの間(ま)にか、演劇(えんげき)の話(はなし)にすり替(か)わっていた。
朋也(ともや)「とにかく、話(はなし)の先(さき)を探(さが)そう。そうすれば、きっとおまえの言(い)うとおり、感動的(かんどうてき)な話(はなし)になる」
渚(なぎさ)「でも、どうやって探(さが)すんですか」
朋也(ともや)「物置(ものおき)とか、なんなりとあるだろう。そういう古(ふる)い物(もの)が残(のこ)ってるところを探(さが)すんだよ」
午後(ごご)からを使(つか)って、ふたりで物置(ものおき)を調(しら)べる。
渚(なぎさ)「あ、すごいもの、見(み)つけました!」
渚(なぎさ)が珍(めずら)しく声(こえ)を張(は)り上(あ)げる。
朋也(ともや)「どうした」
渚(なぎさ)「見(み)てください」
にっこり笑(わら)って差(さ)し出(だ)すそれは…
だんごのキーホルダーだった。
渚(なぎさ)「小学生(しょうがくせい)のとき、これを鞄(かばん)に付(つ)けて、学校(がっこう)に行(い)ってました」
渚(なぎさ)「懐(なつ)かしいです」
渚(なぎさ)「また、付(つ)けて学校(がっこう)に行(い)きたいです」
朋也(ともや)「ぐは…」
その隣(となり)を歩(ある)くのは俺(おれ)じゃないか…。
朋也(ともや)「おまえ、そういうの卒業(そつぎょう)しろよな…」
渚(なぎさ)「はい?
可愛(かわい)いです」
渚(なぎさ)「だんご、だんごっ」
それからは、歌(うた)ってばかりでちっとも作業(さぎょう)が進(すす)まない。
諦(あきら)めかけた頃(ころ)…
秋生(あきお)「誰(だれ)だ、物置(ものおき)で恥(は)ずかしい歌(うた)を歌(うた)ってる奴(やつ)は」
オッサンが現(あらわ)れた。
朋也(ともや)「あんたの娘(むすめ)だ」
秋生(あきお)「なんだ、渚(なぎさ)か」
秋生(あきお)「どうした、何(なに)してる、こんなところで」
渚(なぎさ)「探(さが)し物(もの)です」
秋生(あきお)「何(なに)をだ。言(い)えば、おまえの頼(たよ)りになる父(ちち)が探(さが)してやるぞ、娘(むすめ)よ」
渚(なぎさ)「そういえば…探(さが)し物(もの)って、なんなんでしょう」
渚(なぎさ)が俺(おれ)の顔(かお)を見(み)た。
朋也(ともや)「思(おも)い出(で)の品(しな)だよ、おまえの」
渚(なぎさ)「そうです。わたしの思(おも)い出(で)です」
秋生(あきお)「こんなところにはない」
冷(つめ)たく言(い)い放(はな)った。
秋生(あきお)「ここにあるのは、くだらない物(もの)ばかりだ」
朋也(ともや)「それでもいい。探(さが)したいんだ」
秋生(あきお)「探(さが)すな、何(なに)もねぇ」
渚(なぎさ)「でも、これ、ありました」
キーホルダーを見(み)せる。
秋生(あきお)「あ、ああ…そうか。あるのはそれだけだ。それ以外(いがい)には何(なに)もねぇよ」
秋生(あきお)「だから、部屋(へや)に戻(もど)れ」
朋也(ともや)「………」
秋生(あきお)「ほら、若者(わかもの)らしく、部屋(へや)でチチクリ合(あ)ってろ」
秋生(あきお)「って、何(なに)を推奨(すいしょう)してんだよ、俺(おれ)はああぁっ!」
秋生(あきお)「この野郎(やろう)、チョン切(き)るぞ」
朋也(ともや)「何(なに)をだよっ…」
秋生(あきお)「おら、いけいけっ」
腕(うで)を捕(つか)まれ、放(ほう)り出(だ)された。
朋也(ともや)「なんか、怪(あや)しかったぞ、おまえの親父(おやじ)」
朋也(ともや)「やっぱりあの物置(ものおき)になんか、あるんじゃないのか」
渚(なぎさ)「でも、何(なに)もないって言(い)ってましたから…」
渚(なぎさ)は手(て)の中(なか)のキーホルダーで遊(あそ)んでいる。それだけで十分(じゅうぶん)満足(まんぞく)しているようだった。
朋也(ともや)「でも、探(さが)さないと、演劇(えんげき)できないだろ」
渚(なぎさ)「できます。あのままのお話(はなし)でいいと思(おも)います」
朋也(ともや)「そうかよ…」
そもそも話(はなし)の全貌(ぜんぼう)や、出所(しゅっしょ)を知(し)りたいのは俺(おれ)だけなのだ。
これ以上(いじょう)、無理強(むりじ)いするのもためらわれた。
渚(なぎさ)「では…」
渚(なぎさ)が立(た)ち上(あ)がっていた。
渚(なぎさ)「練習(れんしゅう)したいと思(おも)います。朋也(ともや)くん、付(つ)き合(あ)ってもらえますか」
朋也(ともや)(ゴールデンウィークだってのになぁ…)
朋也(ともや)(演劇(えんげき)に一生懸命(いっしょうけんめい)で、デートだってしてないじゃないか、俺(おれ)たち…)
俺(おれ)は渚(なぎさ)の練習姿(れんしゅうすがた)を眺(なが)め続(つづ)けていた。
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seagull 最后编辑于 2009-08-03 14:23:49
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5月4日
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日
)
古河(ふるかわ)家(いえ)での生活(せいかつ)も三日目(みっかめ)。
今日(きょう)も休(やす)みだったから、ずっと渚(なぎさ)と一緒(いっしょ)にいた。
けど、恋人同士(こいびとどうし)が過(す)ごすような時間(じかん)ではなく、ひとつの目標(もくひょう)…演劇(えんげき)の発表(はっぴょう)に向(む)けて邁進(まいしん)する時間(じかん)だ。
渚(なぎさ)は、台本(だいほん)を書(か)き始(はじ)めた。
台本(だいほん)の書(か)き方(かた)なんて、俺(おれ)も渚(なぎさ)も知(し)らなかったから、ただ喋(しゃべ)るセリフをレポート用紙(ようし)に連(つら)ねていくだけだった。
俺(おれ)はその隣(となり)で、渚(なぎさ)が悩(なや)みながら紡(つむ)ぎだしていくセリフをじっと見(み)つめていた。
そこから、何(なに)か思(おも)い出(だ)せるのではないかと期待(きたい)していたのだ。
でも、渚(なぎさ)の稚拙(ちせつ)なセリフを見(み)ていると、なんだか最初(さいしょ)に抱(だ)いた物語(ものがたり)の印象(いんしょう)からどんどんかけ離(はな)れていくような気(き)がして、俺自身(おれじしん)混乱(こんらん)し始(はじ)める。
渚(なぎさ)「あの…何(なに)か、ヘンでしょうか…」
渚(なぎさ)が手(て)を止(と)めて、不安(ふあん)そうな顔(かお)でこっちを見(み)ていた。
朋也(ともや)「え、どうして?」
渚(なぎさ)「だって、今(いま)、顔(かお)を手(て)で覆(おお)って、うなってました」
朋也(ともや)「ああ…いや、気(き)にしなくていい」
渚(なぎさ)「いえ、ヘンなところあったら、言(い)ってください。直(なお)したいです」
朋也(ともや)「いや、大丈夫(だいじょうぶ)。おまえ、字(じ)、うまいな」
渚(なぎさ)「ありがとうございます」
渚(なぎさ)「でも、お話(はなし)の感想(かんそう)が欲(ほ)しかったです」
朋也(ともや)「ああ、まだ序盤(じょばん)だからな。こんなもんだろう」
渚(なぎさ)「そうですか。良(よ)かったです」
そんな感想(かんそう)で納得(なっとく)したのか、再(ふたた)びレポート用紙(ようし)に向(む)かって、考(かんが)え始(はじ)める。
まぁ、こいつに文才(ぶんさい)があるわけもなく…。
俺(おれ)の期待(きたい)が過剰(かじょう)だったのだろう。
夕方(ゆうがた)になると、夕飯(ゆうはん)の買(か)い物(もの)に付(つ)き合(あ)って、荷物(にもつ)持(も)ちをした。
そして夕食(ゆうしょく)の時間(じかん)。
秋生(あきお)「明日(あした)は、連休最後(れんきゅうさいご)の休(やす)みだ」
渚(なぎさ)と早苗(さなえ)さんがふたりで用意(ようい)してくれた晩御飯(ばんごはん)を前(まえ)に、オッサンが話(はなし)を始(はじ)めていた。
渚(なぎさ)「はい、そうです」
秋生(あきお)「そこで早苗(さなえ)と考(かんが)えたんだ」
渚(なぎさ)「何(なに)をですか?」
秋生(あきお)「けっ、簡単(かんたん)に教(おし)えてたまるか。というわけで、ここでクイズだ」
秋生(あきお)「俺(おれ)と早苗(さなえ)が考(かんが)えた連休最後(れんきゅうさいご)の過(す)ごし方(かた)とは、次(つぎ)のうちのどれだ?」
秋生(あきお)「1、ピクニック」
秋生(あきお)「2、ピクピク」
秋生(あきお)「3、ピグミー族(ぞく)」
秋生(あきお)「さあ、どれだ」
朋也(ともや)(アホな問題(もんだい)だ…)
渚(なぎさ)「全部(ぜんぶ)、字(じ)が似(に)てて、悩(なや)みます」
朋也(ともや)「アホな子(こ)だろ、おまえっ!」
秋生(あきお)「おめぇ、人(ひと)の娘(むすめ)を親(おや)の前(まえ)でアホ呼(よ)ばわりすんじゃねぇっ」
秋生(あきお)「ひとりでピグミー族(ぞく)してろ」
早苗(さなえ)「楽(たの)しかったら、呼(よ)んでくださいね」
朋也(ともや)(こ、この人(ひと)もだ…)
秋生(あきお)「渚(なぎさ)、さぁ、答(こた)えはどれだ」
渚(なぎさ)「はい、1番(ばん)のピクニックです」
秋生(あきお)「ブーッ。正解(せいかい)は2番(ばん)のピクピクでした」
秋生(あきお)「よぅし、明日(あした)はみんなでピクピクだ!」
早苗(さなえ)「秋生(あきお)さんは、ひとりでピクピクしててください」
早苗(さなえ)「渚(なぎさ)、わたしたちはピクニックにいきましょうね」
秋生(あきお)「けっ、嘘(うそ)だ。正解(せいかい)だよ。そう、ピクニックだ」
渚(なぎさ)「本当(ほんとう)ですかっ、とても楽(たの)しみです」
渚(なぎさ)「朋也(ともや)くん、一日(いちにち)、演劇(えんげき)のこと忘(わす)れて遊(あそ)んでもいいですか」
渚(なぎさ)は俺(おれ)に訊(き)いていた。
朋也(ともや)「ああ、いいんじゃねぇの」
渚(なぎさ)「良(よ)かったです。明日(あした)はたくさん遊(あそ)びましょう」
秋生(あきお)「ちっ、しゃあねぇ、こいつも連(つ)れていってやるか」
早苗(さなえ)「大丈夫(だいじょうぶ)です。最初(さいしょ)から岡崎(おかざき)さんも入(はい)っていましたよ」
ああ、またこそばゆい感(かん)じ。
本当(ほんとう)に仲(なか)のいい家族(かぞく)だと思(おも)った。
トントン、とノックの音(おと)がした。
秋生(あきお)「開(あ)けろ、小僧(こぞう)」
秋生(あきお)「つっか、俺様(おれさま)の家(いえ)だから、断(ことわ)りはいらねぇか」
返事(へんじ)もしていないのに、がらり、と戸(と)を開(あ)け放(はな)つ。
秋生(あきお)「よぅ、小僧(こぞう)」
朋也(ともや)「なんだよ、オッサン」
秋生(あきお)「おめ、そのオッサンてのはやめろ」
朋也(ともや)「あんたが、小僧(こぞう)というのをやめれば、やめてやるよ」
秋生(あきお)「てめぇ、生意気(なまいき)だぞ。まだロクにアレも生(は)えてねぇような若造(わかぞう)のくせに」
…この人(ひと)のアレは大人(おとな)になってから生(は)えてきたのだろうか。
秋生(あきお)「まぁ、いい。聞(き)け」
俺(おれ)の正面(しょうめん)にどかと腰(こし)を落(お)ち着(つ)けた。
秋生(あきお)「いいか、今(いま)から話(はな)すことは、渚(なぎさ)には内緒(ないしょ)だぞ」
朋也(ともや)「ああ」
秋生(あきお)「早苗(さなえ)にも、ここで俺(おれ)と内緒話(ないしょばなし)をしたことは言(い)うな。蒸(む)し返(かえ)したくない」
朋也(ともや)「ああ」
秋生(あきお)「む…茶(ちゃ)が欲(ほ)しいな」
秋生(あきお)「おい、早苗(さなえ)ーっ、茶(ちゃ)をいれてくれーっ!」
秋生(あきお)「って、早苗(さなえ)にも内緒(ないしょ)だって言(い)っただろ、今(いま)!」
秋生(あきお)「おい、場所(ばしょ)を変(か)えるぞ、小僧(こぞう)」
秋生(あきお)「早(はや)くしろ、早苗(さなえ)が来(く)るだろっ」
秋生(あきお)「バレたら、どうしてくれるんだよ、てめーっ」
朋也(ともや)(この人(ひと)は頭(あたま)オカシイぞ、絶対(ぜったい)…)
オッサンの後(あと)について、部屋(へや)を出(で)る。
秋生(あきお)「外(そと)に出(で)るぞ、小僧(こぞう)」
秋生(あきお)「ふぅ…危(あぶ)なかった。これで一安心(ひとあんしん)だな」
朋也(ともや)「そうっすね」
適当(てきとう)に相(あい)づちを打(う)っておく。
秋生(あきお)「実(じつ)はだな、小僧(こぞう)」
声(こえ)「はい、お茶(ちゃ)です」
秋生(あきお)「おぅ、早苗(さなえ)、サンキュな」
早苗(さなえ)「岡崎(おかざき)さんも、どうぞ。熱(あつ)いから気(き)をつけてくださいね」
早苗(さなえ)さんから、湯気(ゆげ)の上(あ)がる湯飲(ゆの)みを受(う)け取(と)る。
ずずーっ。
秋生(あきお)「ふぅ、落(お)ち着(つ)くなぁ。やっぱ日本人(にほんじん)は茶(ちゃ)だぜ」
秋生(あきお)「いいか、念(ねん)を押(お)すが、渚(なぎさ)や早苗(さなえ)には内緒(ないしょ)だぞ」
早苗(さなえ)「わたしがどうかしましたか?」
秋生(あきお)「って、真横(まよこ)に居(い)るじゃねぇかああぁぁぁーーーっ!」
早苗(さなえ)「湯飲(ゆの)み空(あ)くまで待(ま)ってますから、気(き)にせずにどうぞ」
秋生(あきお)「くそ、小僧(こぞう)、とっとと飲(の)んで返(かえ)せ」
ずずーっ。
家(いえ)の前(まえ)で立(た)って茶(ちゃ)を飲(の)む不気味(ぶきみ)な大人(おとな)たち。
秋生(あきお)「ふぅ、下(さ)げてくれ、早苗(さなえ)」
早苗(さなえ)「おかわりはいかがですか」
秋生(あきお)「いい」
ふたりの湯飲(ゆの)みを盆(ぼん)に載(の)せて、早苗(さなえ)さんが戻(もど)っていく。
秋生(あきお)「これで落(お)ち着(つ)いて話(はなし)ができるわけだな」
朋也(ともや)「あんたが早苗(さなえ)さんさえ呼(よ)ばなければな」
秋生(あきお)「んな馬鹿(ばか)みてぇなことするか、馬鹿(ばか)」
秋生(あきお)「しかし、なんで突(つ)っ立(た)って、話(はなし)をしなきゃならねぇんだ」
秋生(あきお)「戻(もど)るぞ、小僧(こぞう)」
家(いえ)の中(なか)に戻(もど)っていく。
秋生(あきお)「でだ、小僧(こぞう)」
ようやく話(はなし)が始(はじ)まった。
秋生(あきお)「あれはどうなった、あれは」
朋也(ともや)「あれって、なんだよ」
秋生(あきお)「あれと言(い)えば、あれだ。それぐらい察(さっ)しろ、馬鹿(ばか)」
秋生(あきお)「おまえ、探(さが)してたじゃないか」
朋也(ともや)「ああ、あれか」
秋生(あきお)「そう、それだ。あれからどうなった」
朋也(ともや)「べつに、どうもなってない」
秋生(あきお)「そうか…」
秋生(あきお)「別(べつ)にな、俺(おれ)はそれに関(かん)してはどうとも思(おも)ってねぇんだよ」
秋生(あきお)「渚(なぎさ)が小(ちい)さい時(とき)に使(つか)ってたオマルになんて興味(きょうみ)はねぇんだ」
朋也(ともや)「いや、俺(おれ)だってないけど」
秋生(あきお)「おまえ、必死(ひっし)で探(さが)してただろうがっ!」
朋也(ともや)「んなもん、必死(ひっし)で探(さが)すかぁっ!」
声(こえ)「おふたりさーん、夜遅(よるおそ)いですら、お静(しず)かにお願(ねが)いしますねー」
廊下(ろうか)から早苗(さなえ)さんの声(こえ)。
騒(さわ)がしい内緒話(ないしょばなし)だった。
秋生(あきお)「ちっ、まぁ、いい。オマルは置(お)いておいてだ」
朋也(ともや)「いや、置(お)いておいてじゃなくて、オマルじゃないんだ」
秋生(あきお)「うっせぇなぁ、オマルにしとけ」
朋也(ともや)「するかっ」
秋生(あきお)「ちっ、じゃあこうだ。作戦名(コードネーム):オマル、ということでどうだ」
秋生(あきお)「これなら、あたかもオマルのようでオマルじゃない」
朋也(ともや)「もう、どーでもいいです」
秋生(あきお)「そうか。よし、話(はなし)を続(つづ)けるぞ」
秋生(あきお)「別(べつ)におまえがオマルを探(さが)そうと、どーでもいいんだ、俺(おれ)は」
なんか引(ひ)っかかる…。
秋生(あきお)「けどな、それとは違(ちが)うものをひょいと見(み)つけられたら困(こま)るんだな、これが」
朋也(ともや)「それが物置(ものおき)の中(なか)にあるのか」
秋生(あきお)「ああ、その通(とお)りだ」
秋生(あきお)「そして、それは渚(なぎさ)が探(さが)してるものでもある」
朋也(ともや)「なんだよ、それは」
秋生(あきお)「聞(き)きたいか」
朋也(ともや)「話(はな)したくないなら、いいが」
秋生(あきお)「ちっ、話(はな)してやろう」
秋生(あきお)「このまま内緒(ないしょ)にしておいて、隠(かく)してあるものが俺(おれ)の秘蔵(ひぞう)エロ本(ほん)一万冊(いちまんさつ)などと想像(そうぞう)されるのも嫌(いや)だからな」
そんな想像(そうぞう)、誰(だれ)もしない。
秋生(あきお)「いいか、目(め)ん玉(たま)かっぽじってよく聞(き)け」
痛(いた)そうだ。
秋生(あきお)「あの物置(ものおき)の奥(おく)に仕舞(しまい)ってあるもの、それはだな…」
秋生(あきお)「俺(おれ)と早苗(さなえ)の過去(かこ)だ」
秋生(あきお)「昔(むかし)の写真(しゃしん)とか、ビデオテープとか、日記(にっき)だ」
思(おも)いのほか、平凡(へいぼん)なものだった。
朋也(ともや)「それがどうマズいんだよ」
秋生(あきお)「そこに居(い)るのはな…」
秋生(あきお)「…夢(ゆめ)を追(お)っていた頃(ころ)の俺(おれ)たちだからだ」
秋生(あきお)「どうだ、今(いま)のはカッコイイ言(い)い回(まわ)しだろう」
悦(えつ)に入(はい)っている。馬鹿(ばか)だ。
秋生(あきお)「知(し)ってるだろう、渚(なぎさ)は小(ちい)さい時(とき)に命(いのち)を落(お)としかけた」
朋也(ともや)「いや、知(し)らないが…」
秋生(あきお)「なんだ、聞(き)いてなかったのか」
朋也(ともや)「体(からだ)が弱(よわ)いのは知(し)ってるが」
秋生(あきお)「ああ、あの日(ひ)以来(いらい)な…」
オッサンは、遠(とお)い眼差(まなざ)しを床(ゆか)に向(む)けた。
重苦(おもくる)しい話(はなし)を始(はじ)めようとしていた。
…ぷぅ。
秋生(あきお)「すまん、屁(へ)をこいてしまった」
朋也(ともや)「………」
秋生(あきお)「あれはとても悲(かな)しい出来事(できごと)だった」
屁(へ)の匂(にお)いの中(なか)、強引(ごういん)に重苦(おもくる)しい話(ばなし)を始(はじ)めた。
秋生(あきお)「渚(なぎさ)は命(いのち)を落(お)としかけた、と言(い)ったが、それは正確(せいかく)じゃないかもしれない」
朋也(ともや)「どういうことだ」
秋生(あきお)「いや、それはまた別(べつ)の話(はなし)だ。今(いま)は置(お)いておいてくれ」
朋也(ともや)「………」
秋生(あきお)「とにかくだ、渚(なぎさ)は死(し)ぬかもしれないような状態(じょうたい)に陥(おちい)った」
秋生(あきお)「それは俺(おれ)と早苗(さなえ)のせいなんだ」
秋生(あきお)「神様(かみさま)が罰(ばち)を与(あた)えたんだと思(おも)った」
秋生(あきお)「夢(ゆめ)ばかり追(お)っていて、自分(じぶん)の娘(むすめ)をずっと独(ひと)りにしていた俺(おれ)たちに」
秋生(あきお)「渚(なぎさ)を奪(うば)っていくんだと思(おも)った」
秋生(あきお)「失(うしな)ってみないと気(ぎ)づかなかったんだ」
秋生(あきお)「そして、もう一度(いちど)渚(なぎさ)が目(め)を開(あ)けたとき…」
秋生(あきお)「早苗(さなえ)とふたりで誓(ちか)ったんだ」
秋生(あきお)「ずっとこいつのそばに居(い)ようってな」
朋也(ともや)「………」
秋生(あきお)「パンなんて焼(や)いたことなかったから、大変(たいへん)だったぞ」
秋生(あきお)「でも早苗(さなえ)がパンなら自信(じしん)あるからってよ」
秋生(あきお)「で、焼(や)いてみりゃあんなんだから、俺(おれ)が一(いち)から勉強(べんきょう)するしかなかった」
秋生(あきお)「…まぁ、楽(たの)しかったから、良(よ)かったけどな」
普通(ふつう)、そこまでできるだろうか…。
それとも俺(おれ)は、家族(かぞく)というものを見(み)くびっていたのだろうか。
あるいは、この家族(かぞく)が、特殊(とくしゅ)なだけか。
よくわからなかった。
秋生(あきお)「負(お)い目(め)をあいつに背負(せお)わせたくないんだ」
秋生(あきお)「きっと、あいつはこう思(おも)うだろ」
秋生(あきお)「自分(じぶん)のせいで、俺(おれ)と早苗(さなえ)は夢(ゆめ)を諦(あきら)めたって」
秋生(あきお)「でも、あいつ、感(かん)づき始(はじ)めてやがる」
秋生(あきお)「そういうところには敏感(びんかん)な奴(やつ)だからな」
秋生(あきお)「だから、思(おも)い出(だ)を物置(ものおき)の奥深(おくぶか)くに隠(かく)した」
秋生(あきお)「焼(や)いちまえばいいんだが…」
秋生(あきお)「それをすると早苗(さなえ)が悲(かな)しむだろうからな」
ふぅ、と深(ふか)く息(いき)をつく。
秋生(あきお)「な、わかったろ。そういうことだ」
秋生(あきお)「おまえの探(さが)し物(もの)は、俺(おれ)が手伝(てつだ)ってやる」
秋生(あきお)「だから渚(なぎさ)を連(つ)れていくな」
秋生(あきお)「いいな」
話(はなし)を終(お)え、オッサンが立(た)ち上(あ)がる。
秋生(あきお)「じゃあな、小僧(こぞう)。明日(あした)は楽(たの)しもうぜ」
朋也(ともや)「ああ、オッサン」
けっ、と一言(いちげん)吐(は)き捨(す)てて、部屋(へや)から出(で)ていった。
ひとりになる。
朋也(ともや)「………」
今(いま)聞(き)いた話(はなし)のせいだろうか、居心地(いごこち)が悪(わる)かった。
自分(じぶん)のような部外者(ぶがいしゃ)が、今(いま)、古河(ふるかわ)の家族(かぞく)の中(なか)にいる。
その事実(じじつ)が、居(い)たたまれないのだ。
自分(じぶん)が無粋(ぶすい)な存在(そんざい)に思(おも)えて仕方(しかた)がなかった。
朋也(ともや)(明日(あした)は俺(おれ)、遠慮(えんりょ)するべきだよな…)
家族(かぞく)水入(みずい)らずで、楽(たの)しんできてもらいたかった。
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seagull 最后编辑于 2009-08-03 14:24:29
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5月5日
(
月
)
翌朝(よくあさ)。俺(おれ)は過(す)ごし慣(な)れた部屋(へや)にいた。
春原(すのはら)「ふぅ…」
朋也(ともや)「おかえり」
春原(すのはら)「ただいま」
春原(すのはら)「って、おわっ!
誰(だれ)かいるっ!」
朋也(ともや)「俺(おれ)だ。今更(いまさら)驚(おどろ)くな」
春原(すのはら)「岡崎(おかざき)…」
春原(すのはら)「僕(ぼく)は…朝(あさ)だけは、穏(おだ)やかな時間(じかん)が約束(やくそく)されていると信(しん)じていたんだ…」
春原(すのはら)「朝食(ちょうしょく)を食(く)ってきて、こうしてコーヒーを入(い)れて、部屋(へや)に戻(もど)ってくる」
朋也(ともや)「俺(おれ)のも入(い)れてくれ」
春原(すのはら)「そして小鳥(ことり)のさえずりを聞(き)きながら、コーヒーを飲(の)む…」
朋也(ともや)「俺(おれ)のも入(い)れろって」
春原(すのはら)「朝(あさ)だけは、そんな僕(ぼく)のささやかな幸(しあわ)せが続(つづ)くと思(おも)ってたんだ…」
朋也(ともや)「つーか、おまえのをくれ」
ぶつぶつと何事(なにごと)か呟(つぶや)き続(つづ)ける春原(すのはら)の手(て)からコーヒーカップを奪(うば)い取(と)る。
ずずー
朋也(ともや)「ん、案外(あんがい)うまいな」
春原(すのはら)「………」
春原(すのはら)「岡崎(おかざき)、てめぇを今(いま)ここで、ぶっ殺(ころ)ーーーーーすっ!!」
朋也(ともや)「まぁまぁ、落(お)ち着(つ)け」
春原(すのはら)「平穏(へいおん)な日々(ひび)をこの手(て)にぃーーっ!」
朋也(ともや)「おまえ、そんな大声(おおごえ)で叫(さけ)んでると、また、ラグビー部(ぶ)の連中(れんちゅう)が…」
声(こえ)「おらぁ、朝(あさ)っぱらからうるせぇのはこの部屋(へや)かぁーーっ!」
どんっっ!
ドアを蹴(け)り開(あ)けて、いかつい男(おとこ)が現(あらわ)れた。
男(おとこ)「どっちだ」
朋也(ともや)「こっち」
俺(おれ)は素早(すばや)く春原(すのはら)を指(さ)さす。
男(おとこ)「ちと付(つ)き合(あ)えや」
春原(すのはら)「ひ、ひいぃっ…」
春原(すのはら)「う…」
うわああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ…
部屋(へや)から引(ひ)きずり出(だ)されていった。
ちゅんちゅん…
小鳥(ことり)のさえずりを聞(き)きながら、ずず、とコーヒーをすする。
ずっと忘(わす)れていたような、静(しず)かな朝(あさ)だった。
春原(すのはら)「イツツ…で、岡崎(おかざき)…今日(きょう)はどうしたって?」
腫(は)れ上(あ)がった頬(ほお)を冷(ひ)えたジュースの缶(かん)で冷(ひ)やしながら、春原(すのはら)は訊(き)いた。
もう言(い)い争(あらそ)う気力(きりょく)も失(う)せているようだ。
朋也(ともや)「別(べつ)に」
春原(すのはら)「学校(がっこう)があったって、こんなに早(はや)く起(お)きないだろ?」
朋也(ともや)「おまえこそ」
春原(すのはら)「いや、僕(ぼく)は早起(はやお)きしたんじゃない。寝(ね)てないだけだ」
春原(すのはら)「ふわ…」
春原(すのはら)「つーか、限界(げんかい)…」
朋也(ともや)「寝(ね)るなら、おまえの分(ぶん)の昼飯(ひるめし)食(く)っていい?」
春原(すのはら)「うーん…」
春原(すのはら)「………」
春原(すのはら)はすでに目(め)を閉(と)じている。
朋也(ともや)「おい、頷(うなず)いてから寝(ね)ろ」
春原(すのはら)「………」
返事(へんじ)はない。
………。
男(おとこ)ふたりがいて静(しず)かだというのも、居心地(いごこち)が悪(わる)いものだった。
朋也(ともや)「………」
でも、ここが俺(おれ)がずっと居(い)た場所(ばしょ)だった。
…あいつに出会(であ)うまで。
家族(かぞく)なんて言葉(ことば)には、嫌(いや)なイメージしかなかった。
それが、今日(きょう)はなんだ。
連休最後(れんきゅうさいご)の休(やす)み…。
それを家族(かぞく)水入(みずい)らずで過(す)ごしてもらうために、俺(おれ)はひとり朝早(あさはや)くに古河(ふるかわ)の家(いえ)を抜(ぬ)け出(で)てきた。
俺(おれ)が他人(たにん)の家族(かぞく)のために気(き)を使(つか)ったのだ。
自分(じぶん)でも、その行動(こうどう)を不思議(ふしぎ)に思(おも)った。
俺(おれ)は渚(なぎさ)と居(い)たかった。
だったら、一緒(いっしょ)にいればよかったのだ。
いつものように利己的(りこてき)に振(ふ)る舞(ま)っていればよかったのだ。
でも、俺(おれ)は薄々(うすうす)と気(ぎ)づき始(はじ)めていた。
俺(おれ)は、渚(なぎさ)だけじゃなく…古河(ふるかわ)の家(いえ)を好(す)きになり始(はじ)めていた。
あんな家族(かぞく)があるなんて、知(し)らなかった。
人間(にんげん)とはみんな利己的(りこてき)で、家族(かぞく)は暗黙(あんもく)の了解(りょうかい)で、そのことに目(め)を瞑(つぶ)りながら、暮(く)らしている。
そう思(おも)っていた。
なのに…
あの家(いえ)に居(い)ると、とても落(お)ち着(つ)いてしまう。
もうどこにも行(い)きたくなくなってしまう。
ああ、滑稽(こっけい)だ。
こんな俺(おれ)が。
春原(すのはら)「岡崎(おかざき)、何(なに)笑(わら)ってんの」
春原(すのはら)の声(こえ)。
朋也(ともや)「あん?」
春原(すのはら)「なんか、楽(たの)しいことでもあるの?」
春原(すのはら)「教(おし)えろよ、退屈(たいくつ)じゃん」
朋也(ともや)「別(べつ)に、なんもねぇよ」
春原(すのはら)「ちっ…渚(なぎさ)ちゃんに振(ふ)られでもして、泣(な)きにきたのかと思(おも)ってたのにな…」
朋也(ともや)「そんなことあるかよ…」
朋也(ともや)「ただ、逃(に)げてきただけだよ」
朋也(ともや)「家族愛(かぞくあい)に当(あ)てられそうになってな」
春原(すのはら)「家族愛(かぞくあい)?」
朋也(ともや)「ピクニックだってよ。家族(かぞく)でもないのに俺(おれ)もメンバーに入(い)れられてた」
春原(すのはら)「そりゃ渚(なぎさ)ちゃんの彼氏(かれし)だからだろ?」
朋也(ともや)「いや、まだ両親(りょうしん)にはばれてないと思(おも)うけど」
春原(すのはら)「ま、仲(なか)が良(よ)ければ同(おな)じことだろ」
春原(すのはら)「でも、んなことしたら、渚(なぎさ)ちゃん、ショック受(う)けるんじゃないの?」
朋也(ともや)「ちゃんと書(か)き置(お)きしてきたよ。用事(ようじ)できたから、みんなで行(い)ってくれってさ」
春原(すのはら)「だとしても、だよ」
春原(すのはら)「自分(じぶん)のこと避(さ)けてるんじゃないかって、渚(なぎさ)ちゃん、思(おも)うんじゃない?」
朋也(ともや)「そんなの今更(いまさら)だろ」
朋也(ともや)「俺(おれ)のことはあいつだって、よくわかってるよ」
春原(すのはら)「そうかねぇ…それ、おまえの自惚(うぬぼ)れなんじゃない?」
朋也(ともや)「俺(おれ)は、おまえのひがみに聞(き)こえるぞ」
春原(すのはら)「いや、違(ちが)うね。渚(なぎさ)ちゃんは、いつだって不安(ふあん)に思(おも)ってるんだよ」
春原(すのはら)「自信(じしん)がないんだよ」
春原(すのはら)「僕(ぼく)にはそう見(み)えるけどねぇ」
朋也(ともや)「違(ちが)う。俺(おれ)のおかげで、いろんなことに自信(じしん)が持(も)ててきたって、そう言(い)ってくれてるんだぞ」
春原(すのはら)「だからだろ?」
朋也(ともや)「何(なに)が言(い)いたいんだよ…」
春原(すのはら)「いろんなことに自信(じしん)がついてきたのは、おまえのおかげ」
春原(すのはら)「おまえがいてくれるからなんだろ?」
春原(すのはら)「じゃあ、そいつがいなくなったら、どうなるんだよ」
春原(すのはら)「いくら、いろんなことに自信(じしん)がつこうがさ…」
春原(すのはら)「おまえがいつまで自分(じぶん)のことを好(す)きでいてくれるか…」
春原(すのはら)「そのことだけには永遠(えいえん)に自信(じしん)が持(も)てないってことだよ」
春原(すのはら)「僕(ぼく)にはこれ以上(いじょう)わかりやすい説明(せつめい)は無理(むり)だね」
春原(すのはら)「けど、今(いま)の言(い)いたいことがおまえにわからなかったら、おまえら長(なが)くねぇよ」
朋也(ともや)「………」
春原(すのはら)「ふわ…マジ、限界(げんかい)…」
春原(すのはら)「寝(ね)ていい?」
朋也(ともや)「ああ」
春原(すのはら)はコタツに足(あし)を突(つ)っ込(こ)んだまま、仰向(あおむ)けに倒(たお)れる。
すぐ寝息(ねいき)が聞(き)こえてきた。
俺(おれ)は寮(りょう)を飛(と)び出(だ)していた。
──それでも、朋也(ともや)くんと一緒(いっしょ)に居(い)られたら…
──もっと、がんばれる気(き)がしてます。
あれは…
いなくなってしまったら、頑張(がんば)れないと…
俺(おれ)にすがるようにして伝(つた)えた言葉(ことば)だったのだろうか。
渚(なぎさ)らしい…控(ひか)えめな言(い)い方(かた)で。
公園(こうえん)に、ひとりの女(おんな)の子(こ)の姿(すがた)があった。
胸(むね)に手(て)を当(あ)てたまま、不安(ふあん)げな表情(ひょうじょう)できょろきょろと首(くび)を動(うご)かしていた。
俺(おれ)は寄(よ)っていった。
渚(なぎさ)「あ…」
驚(おどろ)いた後(あと)、安堵(あんど)の表情(ひょうじょう)に変(か)わった。
渚(なぎさ)「朋也(ともや)くん、探(さが)してました」
渚(なぎさ)「ピクニックです。今日(きょう)」
渚(なぎさ)「忘(わす)れてましたか」
俺(おれ)は息(いき)を整(ととの)える。
そして、平静(へいせい)を装(よそお)って言(い)った。
朋也(ともや)「急用(きゅうよう)を思(おも)い出(だ)したから、家(いえ)に帰(かえ)るってさ…書(か)き置(お)き、置(お)いてあっただろ」
渚(なぎさ)「いえ…わたし、知(し)らないです」
渚(なぎさ)「お父(とう)さんが、朋也(ともや)くんを探(さが)してこいって」
ため息(いき)をついて、俺(おれ)は頭(あたま)を垂(た)れた。
朋也(ともや)「ったく…あのオッサンは…」
地面(じめん)に向(む)けてそう呟(つぶや)く。
朋也(ともや)「………」
朋也(ともや)「あのさ…渚(なぎさ)…」
徐々(じょじょ)に顔(かお)を上(あ)げていく。
朋也(ともや)「おまえさ…」
渚(なぎさ)「はい」
朋也(ともや)「今(いま)も不安(ふあん)なのか…」
渚(なぎさ)「なにがですか?」
朋也(ともや)「俺(おれ)がおまえのこと、いつか嫌(きら)いになるんじゃないかって…」
渚(なぎさ)「え…」
渚(なぎさ)「いえ…そんなことないです」
言(い)いよどんだ。
渚(なぎさ)「わたし…嫌(きら)われないようにがんばります」
朋也(ともや)「頑張(がんば)る…?」
朋也(ともや)「頑張(がんば)らなくていいんだよ、そんなこと…」
渚(なぎさ)「どうしてですか」
朋也(ともや)「だって嫌(きら)いになんてならねぇよ」
朋也(ともや)「頑張(がんば)らなくても、今(いま)のおまえのままで…」
渚(なぎさ)「でも、心配(しんぱい)です」
朋也(ともや)「おまえさ…」
朋也(ともや)「俺(おれ)が、おまえのこと、どれぐらい好(す)きか知(し)らないだろ」
渚(なぎさ)「………」
朋也(ともや)「おまえもさ…俺(おれ)のこと好(す)きなんだろ?」
渚(なぎさ)「はい、もちろん好(す)きです」
朋也(ともや)「でも、きっとさ…」
朋也(ともや)「それ以上(いじょう)に、俺(おれ)はおまえのこと好(す)きだ」
渚(なぎさ)「それは…本当(ほんとう)ですか」
朋也(ともや)「ああ」
渚(なぎさ)「もし、それが本当(ほんとう)なら…朋也(ともや)くんは、ものすごいことになってます」
渚(なぎさ)「どきどきして、うれしくて、恥(は)ずかしくて…」
渚(なぎさ)「でも、不安(ふあん)で、心配(しんぱい)で…」
渚(なぎさ)「苦(くる)しくて…」
渚(なぎさ)「朋也(ともや)くん、大変(たいへん)です…」
全部(ぜんぶ)、自分(じぶん)のことだった。
渚(なぎさ)の思(おも)いだ。
自分(じぶん)はこんなにも思(おも)われている。
それは…なんて、幸(しあわ)せなことなんだろう。
世(よ)の中(なか)にひとりでも、俺(おれ)のことが好(す)きで、思(おも)い悩(なや)んでくれる人(ひと)がいる。
離(はな)れていても。ひとりの夜(よる)も。遠(とお)くで思(おも)ってくれている。
自分(じぶん)という存在(そんざい)が、他人(たにん)の中(なか)にある。
それはなんて、頼(たの)もしい支(ささ)えだろう。
それだけで、強(つよ)くいられる。
そして、俺(おれ)も、そいつのことが好(す)きだった。
渚(なぎさ)「でも、そんなわけないです」
朋也(ともや)「信(しん)じろ」
渚(なぎさ)「信(しん)じられないです」
だったら、証明(しょうめい)するしかなかった。
朋也(ともや)「…じゃあ、勝負(しょうぶ)しようか」
渚(なぎさ)「どうやってですか」
朋也(ともや)「手(て)を繋(つな)ぐ」
渚(なぎさ)「はい」
朋也(ともや)「強(つよ)く握(にぎ)り合(あ)う」
渚(なぎさ)「はい」
朋也(ともや)「離(はな)そうとしたほうが負(ま)け」
朋也(ともや)「いいか?」
渚(なぎさ)「はいっ」
大(おお)きく返事(へんじ)して、手(て)を差(さ)し出(だ)す。
俺(おれ)はそれを握(にぎ)った。
休(やす)みの日(ひ)の、公園(こうえん)。
子供連(こどもづ)れの家族(かぞく)、散歩(さんぽ)する年寄(としよ)り…。
徐々(じょじょ)に人(ひと)が増(ふ)えてくる。
その中(なか)、俺(おれ)たちは、手(て)を握(にぎ)り合(あ)ったままでベンチに座(すわ)っていた。
相当(そうとう)、恥(は)ずかしい…。
でも、こうして、ずっと握(にぎ)ってあげていれば…
渚(なぎさ)は自信(じしん)がつくはずだった。
悩(なや)むことも少(すく)なくなるはずだった。
でも…勝負(しょうぶ)なんて、本当(ほんとう)はもうどうでもよかった。
わざわざ気(き)を使(つか)って、渚(なぎさ)の家(いえ)を出(で)た休日(きゅうじつ)。
最初(さいしょ)からこうして一緒(いっしょ)にいればよかったんだ。
やりたいようにする。
そうしていれば良(よ)かったんだ。
渚(なぎさ)「あ」
突然(とつぜん)、渚(なぎさ)が声(こえ)をあげた。
渚(なぎさ)「お父(とう)さんです」
朋也(ともや)「げ…マジ?」
前方(ぜんぽう)から、オッサンが肩(かた)をいからせて大股(おおまた)でやってくる。
渚(なぎさ)「強敵(きょうてき)です」
渚(なぎさ)が、さらに強(つよ)く俺(おれ)の手(て)を握(にぎ)る。
秋生(あきお)「なんだよ、てめぇらっ」
秋生(あきお)「いたんなら、呼(よ)びにこいっ。ちっ…もうこんな時間(じかん)じゃねぇか…」
渚(なぎさ)「ごめんなさいです。でも、いろいろとわけがあるんです」
秋生(あきお)「遠出(とおで)はもう無理(むり)か…」
秋生(あきお)「………」
思(おも)いっきり睨(にら)まれる。
朋也(ともや)「い、いや…悪(わる)いとは思(おも)ってる…」
オッサンは俺(おれ)と渚(なぎさ)の腕(うで)をそれぞれ掴(つか)むと…
秋生(あきお)「ふんっ!」
力(ちから)ずくで引(ひ)き離(はな)した。
渚(なぎさ)「あ…」
朋也(ともや)「なにすんだよっ」
すぽっ。代(か)わりに俺(おれ)の手(て)に堅(かた)いものが握(にぎ)らされる。
バットのグリップだった。
秋生(あきお)「てめぇのせいで、ピクニック行(い)けなかったからな」
秋生(あきお)「野球(やきゅう)の相手(あいて)しろ」
朋也(ともや)「野球(やきゅう)?」
秋生(あきお)「よぅし、ガキ共(とも)を集(あつ)めてくるな」
来(き)た時(とき)と同(おな)じように大股(おおまた)で歩(ある)いていった。
渚(なぎさ)「お父(とう)さんの趣味(しゅみ)です」
朋也(ともや)「ああ…前(まえ)に聞(き)いたよ」
渚(なぎさ)「それで、その…勝負(しょうぶ)のほうは…」
朋也(ともや)「引(ひ)き分(わ)けだ」
渚(なぎさ)「じゃ、同(おな)じぐらいってことですか」
朋也(ともや)「そうだな…」
渚(なぎさ)「なんだか、良(よ)かったです」
朋也(ともや)「ああ」
渚(なぎさ)「うれしい気持(きも)ちも、苦(くる)しい気持(きも)ちも同(おな)じです」
本当(ほんとう)に、嬉(うれ)しそうに言(い)った。
だから俺(おれ)も、同(おな)じ気持(きも)ちになった。
渚(なぎさ)「…えへへ」
ふたりは今日(きょう)からも、相手(あいて)に負(ま)けないよう努力(どりょく)をし続(つづ)けていくのだろう。
相手(あいて)に好(す)きでいてもらえるように。
それはとてもいい関係(かんけい)のように思(おも)えた。
声(こえ)「おふたりさん、どうぞ」
下(した)のほうから声(こえ)がした。
朋也(ともや)「ぐあ…早苗(さなえ)さん…」
見(み)ると、早苗(さなえ)さんがレジャーシートを引(ひ)いて、その上(うえ)に座(すわ)っていた。
しかも、重箱(じゅうばこ)のような弁当(べんとう)まで用意(ようい)されている…。
朋也(ともや)「ここで、ピクニックすか…」
早苗(さなえ)「はいっ」
渚(なぎさ)「朋也(ともや)くん、これ、わたしも手伝(てつだ)いました。ぜひ食(た)べてください」
渚(なぎさ)「卵焼(たまごやき)きは甘(あま)くてよかったですかっ」
朋也(ともや)「あ、ああ…」
腕(うで)を引(ひ)っ張(ぱ)られて、座(すわ)らされる。
早苗(さなえ)「くつろいでくださいね」
朋也(ともや)「すんげぇ目立(めだ)ってて、落(お)ち着(つ)けないんすけど」
早苗(さなえ)「気(き)になるのは最初(さいしょ)だけです」
朋也(ともや)「そうすか…」
目(め)の前(まえ)に置(お)いたコップにお茶(ちゃ)を注(つ)いでくれる。
遠(とお)くでは、オッサンが、子供(こども)たちとジャンケンを始(はじ)めている。
人手(ひとで)は足(た)りているらしく、一向(いっこう)にお呼(よ)びがかからない。
そもそも野球(やきゅう)は苦手(にがて)だ。
朋也(ともや)(ああ…なんつーか…)
朋也(ともや)(懐(なつ)かしい感(かん)じ…)
こんな低(ひく)い目線(めせん)を忘(わす)れていた。
地面(じめん)に群生(ぐんせい)した雑草(ざっそう)が、敷(し)き詰(つ)められた芝生(しばふ)のように広(ひろ)く見(み)える。
それを踏(ふ)みしめる子供(こども)たちも、大(おお)きく見(み)えた。
手(て)を後(うし)ろについて見上(みあ)げると、空高(そらたか)くに飛行機(ひこうき)の影(かげ)。
朋也(ともや)(ああ、なんか、すごく気持(きも)ちいい)
目(め)を細(ほそ)めてずっと見(み)ていた。
そうしながら俺(おれ)は、いつからか渚(なぎさ)の手(て)を握(にぎ)っていた。
渚(なぎさ)「勝負(しょうぶ)の続(つづ)きですか?」
朋也(ともや)「勝負(しょうぶ)もなにも関係(かんけい)ねぇよ…」
そうしたかっただけだ。
渚(なぎさ)「はい…」
渚(なぎさ)が身(み)を寄(よ)せてくる。
オッサンが、バッターボックスに入(はい)っていた。
それを早苗(さなえ)さんが、大声(おおごえ)で、応援(おうえん)している。
その後(うし)ろで、俺(おれ)たちは隠(かく)れるように…
初(はじ)めてのキスをした。
深夜(しんや)0時(じ)を回(まわ)り、布団(ふとん)を敷(し)いたところで…
秋生(あきお)「よぅ、まだ起(お)きてるか」
半分開(はんぶんひら)いた戸(と)から、オッサンが顔(かお)を覗(のぞ)かせた。
朋也(ともや)「ああ、これから寝(ね)ようとしてたところだけど」
秋生(あきお)「なら、手伝(てつだ)ってやるから、こい」
朋也(ともや)「あん?」
秋生(あきお)「探(さが)し物(もの)があんだろ」
朋也(ともや)「あ、ああ」
秋生(あきお)「静(しず)かに歩(ある)けよ。渚(なぎさ)に起(お)きられたら、まずいからな…」
朋也(ともや)「ああ…」
秋生(あきお)「見(み)つからなくても、文句(もんく)言(い)うなよ」
朋也(ともや)「言(い)わない。もとから望(のぞ)み薄(うす)だからな」
秋生(あきお)「ちっ…しかし、そんなものを探(さが)そうなんて、わけわからんぞ」
朋也(ともや)「何(なに)を」
秋生(あきお)「渚(なぎさ)が小(ちい)さい時(とき)に使(つか)ってたオマルだろ」
朋也(ともや)「いや、そんなもの探(さが)してないけど」
秋生(あきお)「おまえ、必死(ひっし)で探(さが)してただろうがっ、オマルを!」
朋也(ともや)「探(さが)してねぇよ!
オマルであって、オマルじゃなかったはずだろっ!」
秋生(あきお)「わけわからんこと言(い)ってんじゃねぇ、オマルはオマルだろうがっ!」
朋也(ともや)「そりゃ、作戦名(コードネーム)、コードネームだろうがっ!」
秋生(あきお)「はぁん?
コードネームだとぅ!?
俺(おれ)を馬鹿(ばか)にしてんのか、小僧(こぞう)っ!」
朋也(ともや)「あんたが付(つ)けたんだよ、オッサン!!」
秋生(あきお)「てめぇ、いい加減(かげん)ブチ切(き)れるぞ、うらあぁぁぁーーっ!」
声(こえ)「もう深夜(しんや)ですから、お静(しず)かにお願(ねが)いしますねーっ」
早苗(さなえ)さんの声(こえ)。
秋生(あきお)「静(しず)かにしろ、馬鹿(ばか)!
渚(なぎさ)が起(お)きるだろっ」
朋也(ともや)「あんたが言(い)うな…」
今(いま)ので起(お)きていなかったら、奇跡(きせき)だ。
今更(いまさら)意味(いみ)のないすり足(あし)で、オッサンは廊下(ろうか)を歩(ある)いていく。
俺(おれ)もその後(あと)に続(つづ)いた。
秋生(あきお)「ふぅ、到着(とうちゃく)」
秋生(あきお)「これより、作戦名(コードネーム):オマルを遂行(すいこう)する!」
自分(じぶん)で付(つ)けたのを思(おも)い出(だ)したようである。
朋也(ともや)「ちなみに、探(さが)すのはオマルじゃねぇぞ」
秋生(あきお)「なんだ」
朋也(ともや)「前(まえ)に話(はな)しただろ。渚(なぎさ)が小(ちい)さい時(とき)に聞(き)かされて、わずかに憶(おも)えてる話(はなし)があるって」
朋也(ともや)「もしかしたら、本(もと)として残(のこ)ってるかもしれないから、それを探(さが)したいんだ」
秋生(あきお)「本(ほん)か…本(ほん)は結構(けっこう)あるぞ。厄介(やっかい)だな」
秋生(あきお)「一万冊(いちまんさつ)はないが、千冊近(せんさつちか)くはあると思(おも)うぞ」
朋也(ともや)「何(なに)が」
秋生(あきお)「エロ本(ほん)」
朋也(ともや)「………」
秋生(あきお)「早苗(さなえ)には内緒(ないしょ)だぞ、てめぇ」
ふたりで明(あ)け方(がた)近(ちか)くまで探(さが)し続(つづ)けたが、結局(けっきょく)絵本(えほん)の一冊(いっさつ)すら見(み)つけだすことができなかった。
秋生(あきお)「あれだな、おい。邪魔(じゃま)だから、捨(す)てちまったんだ、きっと」
邪魔(じゃま)だから捨(す)てるべきものは、別(べつ)にもっとあると思(おも)うが。
まぁ、実際(じっさい)、絵本(えほん)なんかを大事(だいじ)に取(と)っておく家庭(かてい)は少(すく)ないのかもしれない。
秋生(あきお)「気(き)が済(す)んだか」
朋也(ともや)「………」
秋生(あきお)「エロ本(ほん)やるから、元気(げんき)だせ」
朋也(ともや)「いらねぇよ…」
秋生(あきお)「ちっ…可愛(かわい)げのない野郎(やろう)だぜ」
秋生(あきお)「とにかく今日(きょう)はもう寝(ね)ようぜ。おまえ、明日(あした)から学校(がっこう)だろ。寝坊(ねぼう)すっぞ」
朋也(ともや)「ああ、そうだな…」
仕方(しかた)なく、引(ひ)き上(あ)げることにした。
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seagull 最后编辑于 2009-08-03 14:25:11
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進めるなら、前に進むべきなんです。
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liyucmh
2009-05-19 00:34
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回复:clannad渚线剧本注音计划
强帖要顶,谢谢楼主的奉献精神
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seagull
2009-05-19 13:20
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只看楼主
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回复 57F hkuczc 的帖子
我注音的时候发现两个意思都差不多,特别是表示种类和同类的时候,不太清楚怎么区分,就用了一个常用的读音。
この類(たぐい)には関心がない。
この類(るい)の本。
这里确实是類(たぐい),因为5月6日秋生有句话:
秋生(あきお)「もし、あいつが昔(むかし)にそういった類(たぐい)の劇(げき)を見(み)ているとしてもだ」
ps:已更新。谢谢hkuczc的长期关注。
がんばれるなら、がんばるべきなんです。
進めるなら、前に進むべきなんです。
clannad渚线剧本注音完成(rc版发布)
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seagull
2009-05-19 13:21
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回复: clannad渚线剧本注音计划
幻想世界
IX
ずっと、続(つづ)いていた穏(おだ)やかな暮(く)らし。
それは、彼女(かのじょ)とふたりで居(い)れば、ずっと続(つづ)くと思(おも)っていた。
世界(せかい)にはふたりしかいなくても、ずっと続(つづ)いていくと思(おも)っていた。
でも、何(なに)かが変(か)わり始(はじ)めていた。
冬(ふゆ)の到来(とうらい)と共(とも)に。
まるで冬(ふゆ)が…彼女(かのじょ)の体力(たいりょく)を奪(うば)っていくようだった。
気温(きおん)が下(さ)がると共(とも)に、彼女(かのじょ)は眠(ねむ)ることが多(おお)くなった。
ずっと、元気(げんき)にふたりで遊(あそ)んでいたのに。
遠(とお)くには、とても不吉(ふきつ)な雲(くも)が広(ひろ)がっていた。
…雪雲(ゆきぐも)だ。
僕(ぼく)は、決心(けっしん)する時(とき)だと思(おも)った。
今(いま)、そうしなければ、すべてが手遅(ておく)れになってしまう。
今(いま)なら、まだ間(ま)に合(あ)う気(き)がした。
冬(ふゆ)がやってきてしまえば、何(なに)もかもが雪(ゆき)に埋(う)もれてしまう。
そうなる前(まえ)に。
小屋(こや)に戻(もど)ると、彼女(かのじょ)は壁(かべ)にもたれて座(すわ)って、ぼーっと窓(まど)の外(そと)を見(み)ていた。
僕(ぼく)はそれが気(き)がかりだった。
寒(さむ)さのせいだろうか。
僕(ぼく)は近(ちか)づいていって、窓(まど)の外(そと)を指(さ)さした。
彼女(かのじょ)の見(み)ている先(さき)よりも、もっと遠(とお)く。空(そら)の果(は)てを。
…ん?
彼女(かのじょ)が気(き)づいて、僕(ぼく)を見(み)る。
…あそこがどうしたの?
僕(ぼく)は指(さ)さし続(つづ)けた。
…いきたいの?
こくん。僕(ぼく)は大(おお)きく頷(うなず)く。
…でも、冬(ふゆ)がくるよ。
僕(ぼく)はじっと彼女(かのじょ)の顔(かお)を見(み)続(つづ)けた。
…それでも?
こくん。僕(ぼく)は大(おお)きく頷(うなず)く。
…これ以上(いじょう)、寒(さむ)くなったら、わたしは動(うご)けなくなるよ…
だったら、なおさら。
…それにね、この家(いえ)を離(はな)れたら、帰(かえ)ってこれなくなるよ…
………。
…それでも?
こくん。僕(ぼく)は大(おお)きく頷(うなず)く。
…あの先(さき)には何(なに)があるの?
僕(ぼく)はぴょんぴょんと飛(と)び跳(は)ねる。
…楽(たの)しいところ?
こくん。僕(ぼく)は大(おお)きく頷(うなず)く。
…いろんなものがあって…
…毎日(まいにち)が楽(たの)しくて…
…温(あたた)かな場所(ばしょ)…?
こくん。僕(ぼく)は大(おお)きく頷(うなず)く。
…でも、もう間(ま)に合(あ)わないよ…
…冬(ふゆ)の雲(くも)に追(お)いつかれるよ…
僕(ぼく)は記憶(きおく)を辿(たど)る。
深(ふか)い淀(よど)みの中(なか)の記憶(きおく)を。
空(そら)だ。
空(そら)をいくんだ。
僕(ぼく)は手(て)を空(そら)に向(む)けて、滑(なめ)らせた。
…空(そら)を…いくの?
こくん。僕(ぼく)は大(おお)きく頷(うなず)く。
…どうやって?
手(て)と手(て)を合(あ)わせる。
…作(つく)るの?
こくん。僕(ぼく)は大(おお)きく頷(うなず)く。
…空(そら)を飛(と)んでいける…のりものを?
こくん。僕(ぼく)は大(おお)きく頷(うなず)く。
今(いま)、確(たし)かに僕(ぼく)の心(こころ)の中(なか)にある形(かたち)。
それが彼女(かのじょ)に伝(つた)わっているだろうか。
………。
彼女(かのじょ)はまた、少(すこ)しぼーっとした後(あと)…
こくん。小(ちい)さく頷(うなず)いた。
その日(ひ)から、僕(ぼく)らは、空(そら)を飛(と)ぶ乗(の)り物(もの)を作(つく)り始(はじ)めた。
僕(ぼく)がガラクタを集(あつ)めて、彼女(かのじょ)が組(く)み上(あ)げていく。
空(そら)はどんどん、曇(くも)っていく。
僕(ぼく)は組(く)み上(あ)げられていく山(やま)を見上(みあ)げる。
そこに生(は)える大(おお)きな翼(つばさ)を、僕(ぼく)は思(おも)い描(えが)いた。
冬(ふゆ)が来(く)る前(まえ)にどうか…。
その翼(つばさ)で、飛(と)べますように。
白(しろ)い息(いき)を吐(つ)く彼女(かのじょ)。
目(め)をこする。
…少(すこ)し、眠(ねむ)い。
僕(ぼく)は心配(しんぱい)げに彼女(かのじょ)を見上(みあ)げた。
…ごめんね、続(つづ)けよう。
彼女(かのじょ)は頑張(がんば)り続(つづ)けた。
彼女(かのじょ)もわかっていたのかもしれない。
今(いま)、やらないとダメだということを。
彼女(かのじょ)も自分(じぶん)で言(い)っていた。
冬(ふゆ)が来(く)れば、動(うご)けなくなってしまうと。
それがどういうことを指(さ)すのか、よくわからなかった。
でも、きっと、どうしようもなくなってしまうんだ。
だから、休(やす)みなく、作業(さぎょう)を続(つづ)けた。
僕(ぼく)も、ガラクタを彼女(かのじょ)の元(もと)に運(はこ)び続(つづ)けた。
そして、次(つぎ)、彼女(かのじょ)を見(み)た時(とき)。
冷(つめ)たい地面(じめん)に、その体(からだ)を横(よこ)たえていた。
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seagull 最后编辑于 2009-08-03 14:26:02
がんばれるなら、がんばるべきなんです。
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